誰だって歳をとる。もちろんハリウッドスターだって。
エンタメの最前線で、人はどう“老い”と向き合うのか?
スターの生き様を追って、そのヒントを見つけ出す。
「これを書いたのはオレです。演じるのはオレでなければならないのです」
――29歳頃、『ロッキー』の監督・主演を決める会議にて
『炎の男スタローン』(ジェフ・ロビン著、高沢 明良 文、講談社X文庫)より引用
ドン底と頂点を上がって下がって何十年、
70歳を超えた今なお戦い続ける男・スタローン!
挫折と苦闘と栄光にまみれた生き様を振り返る!
50代になる頃、スタさんはレスキューアクションの傑作『デイライト』(1996年)で相変わらず筋肉を見せつけるが、一方で明確に脱マッスル方向を打ち出す。『コップランド』(1997年)である。
ここでスタさんは筋肉の鎧を脱ぎ捨て、平凡な中年男性役に挑んだ。監督のジェームズ・マンゴールドは、後に『LOGAN/ローガン』(2017年)や『フォードvsフェラーリ』(2019年)など、「アメリカの渋い男」を撮る達人になる人物だ。これまでのスタさん映画とは一味違った“渋い”快作となった。恐らくスタさんは少しずつ方向性を変えようとしていたのだろう。
しかし、時代の流れはスタさんが思っているよりずっと早かった。1999年、ハリウッドでアクション映画が決定的に変わってしまう。『マトリックス』(1999年)の登場である。体の線が細いキアヌ・リーブスが、最新のVFXと華麗なワイヤーワークで人を蹴り飛ばす姿は、筋肉バブルの崩壊を意味していた。
このトレンドの変化を敏感に悟ったのか、シュワちゃんは2003年に政治家へ華麗に転身。一方のスタさんは完全に時代に取り残された。
小粒ながらファンの多いアクション映画『追撃者』(2000年)、ド派手なカーレース映画『ドリヴン』(2001年)を最後に、スタさんをスクリーンで見る機会が減った。作り手もスタさんをどう扱うべきか分からず、スタさん自身もどう動くべきか分からなかったのだろう。
2000年代前半は明確に不在の感があった。とはいえ冷静に考えれば、この頃のスタさんは50代である。織田信長なら限界だ。「さすがのスタさんも落ち着いたのかな」しかし……!
そんなふうに思っていた矢先、驚愕のニュースが世界中を駆け巡った。なんとスタさんが16年ぶりに『ロッキー』の新作を作るというのだ。その映画『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006年)が公開されるとき、スタさんは60歳になっていた。
『ロッキー』の新作ができる。このニュースに対して、世間の反応は冷たかった。おまけにロッキー自身が現役の世界チャンピオンと戦う話だという。あまりに突飛すぎる話だったし、正直な話をすると……かくいう私も不安でした。ここ日本でも映画評論家のおすぎ氏が冷ややかな反応を示していたのを覚えている。
しかしスタさんは監督・脚本・主演で映画を完成させた。完全な逆境の中で公開された『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006年)だが、これが興行/批評面でスマッシュ・ヒット。老いを乗り越えてリングに上がるロッキーの姿は、全世界のファンを熱狂させた。おすぎ氏も見終わった後に謝罪するなど、まさかの大成功を収めたのである。
スタさんはこの成功を引っ提げ、ハリウッドの最前線へ再び舞い戻る。返す刀で『ランボー 最後の戦場』(2008年)に着手。これまでの『ランボー』とは違う血みどろの戦争映画に仕上げ、こちらも大成功する。
60歳を過ぎたのに再びアクションスターの座に返り咲いたスタさんは、あるビッグ・プロジェクトに着手。シュワちゃん、ブルース・ウィリス、ドルフ・ラングレンといったシノギを削り合ったアクションスターから、ジェイソン・ステイサムやジェット・リーといった中堅どころ、さらに色々あってドン底を見た男ミッキー・ロークまで、様々な立場の俳優を呼んだアクション超大作『エクスペンダブルズ』(2010年)を発表したのだ。
スタさんは格闘シーンの撮影中に首の骨にヒビが入る大ケガを負うが、完成した同作は大成功。CG系とは真逆の肉体派俳優として、スタさんはアクション・スターとしての地位を確固たるものにした。しかし……!
2010年代、再びスタさんのキャリアは80~90年代のような玉石混交期へ突入する。
『エクスペンダブルズ2』(2012年)はヒットしたが、それ以外は今一つの結果が続く。「さすがに60代だし、限界が……」そんな空気になったと思ったら、またも世界を激震させるニュースが入ってくる。なんと『ロッキー』の続編を作るというのだ。しかもロッキーの盟友だったアポロの息子が主人公だという。さすがに今回は無理なんじゃないか。『ロッキー・ザ・ファイナル』が良かっただけに、蛇足にしかならないんじゃないか……世界中のファンは不安で眠れぬ夜をすごした。
しかし、結論から言えばそれは全て杞憂にすぎなかった。監督・脚本を務めたのは新進気鋭のライアン・クーグラー。1986年生まれであり、決して『ロッキー』直撃世代ではない。しかしクーグラーは父親が『ロッキー』の熱烈なファンで、事あるごとに『ロッキー』を見て育った、『ロッキー』大好き人間だったのである。
クーグラーはスタさんに企画を持ち込み、熱心に説き伏せた。そのときのことをスタさんはこう振り返っている。
「正直“こんな若者が?”と思ったよ。(『ロッキー』は)彼の2世代も前の話だしね。だが引き込まれた」
かくして若き才能が全力投球した映画『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)が公開された。すると評論家もファンも大熱狂。同作は『ロッキー』1作目を彷彿とさせる熱い人間ドラマと、最新技術が可能にしたキレキレのアクションが両立する傑作だった。
世界中で大ヒットし、主演のマイケル・B・ジョーダンは一躍ブレイク。クリードの師匠役に徹したスタさんの演技も絶賛され、アカデミー賞助演男優賞にノミネート。この成功を引っ提げて、再びスタさんはハリウッドの最前線へ戻る。
マーベル映画の超大作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017年)にゲスト的に出演し、待望の続編『クリード 炎の宿敵』(2018年)もヒット。「今度こそスタさんは安定した。何だかんだあったけど、スタさんもイイ歳の取り方をしたなぁ」誰もがそう胸を撫でおろした、しかし……!
2018年、スタさんは自身の映画会社バルボア・プロダクションを設立。会社経営に乗り出しつつ、俳優として1本の問題作に主演する。『大脱出2』(2018年)である。これが本当にメチャクチャな映画で、ほとんど映画として破綻していた。あまりの内容にスタさんが謝るなどキャリア史上に残る失敗作になってしまう。
続く『大脱出3』(2019年)も厳しい出来だった(新作『ランボー ラスト・ブラッド』 は、まだ未見なので何とも言えません)。現状、またしてもスタさんの将来に不穏な影が漂っている。しかし……!
スタさんは現在『ロッキー』の新作や、『エクスペンダブルズ4』といったファンの望む直球から(エクスペの方は台本まで出来ているらしい)、オリジナルのスーパーヒーロー映画といった変化球、さらには中国に支配されたアメリカを舞台にしたSFアクションなどの危険球まで、様々な企画を動かしているそうだ。
インスタも使いこなし、日々筋トレの模様をアップしている。まさに今この瞬間も全然やる気である。もちろん、そのやる気が報われるかどうかは分からないが……と、心配になるのがスタさんの魅力だろう。なぜなら、ほとんどの一般人は多かれ少なかれ不安と共に生きているからだ。私たちの人生には、スタさんと同じく、苦悩と失敗がつきものだ。だからこそ、失敗するスタさんに自分を重ね、逆境から再起するスタさんに喝さいを送るのだ。
スタさんは決して戦うことをやめない。どんなときも挑戦し、失敗しても諦めずに立ち上がる。安定とは無縁だが、そんな生き方をもう70年以上続けているのだ。冒頭にも書いた通り、これからスタさんがどうなるかはサッパリわからない。いつだってスタさんの人生は「しかし……!」の連続で、「しかし……!」から何かが始まる。けれどスタさんが常にベストを尽くすこと、そして逆境の中で光り輝くのは確かだ。
それでは最後に、スタさんが「あなたにとってアクションヒーローとは何でしょうか?」と聞かれたときの答えを引用して、この記事を終わりたい。
「筋肉でも超越した運動能力でもなく、観客が感情移入できる要素が必要だ。手を伸ばせば触れることができて、欠点さえ見せる生身の人間。そして、観客の思いや願いと一体となり、そこから物語が膨らんでいく。見る人が育て上げていくことのできるヒーローこそが、本物のアクションヒーローだと思う」
――『エクスペンダブルズ2』シルヴェスター・スタローン インタビュー
▽参考資料
・『炎の男スタローン』(ジェフ・ロビン 著 / 高沢 明良 話 / 講談社X文庫)
・シルベスター・スタローン、過去の駄作で娘たちにからかわれる!?
・映画『クリード チャンプを継ぐ男』特別映像(Generations)【HD】2015年12月23日公開
・『エクスペンダブルズ2』シルヴェスター・スタローン インタビュー
300年続く日本のエンターテインメント「忠臣蔵」のマニア。
昼は通勤、夜は自宅で映画に関してあれこれ書く兼業ライター。主な寄稿先はweb媒体ですと「リアルサウンド映画部」「シネマトゥデイ」、紙媒体は「映画秘宝」本誌と別冊(洋泉社)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。ちなみに昼はゲームのシナリオを書くお仕事をしています。
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