映画『老後の資金がありません!』:あなたは老後のお金について考えていますか?

医療・介護分野で情報発信を続けているフリーアナウンサー町亞聖氏に、介護や老後をテーマとしたエンタメをレビューしてもらう本企画。

今回は、天海祐希が主演を務め話題となった映画『老後の資金がありません!』を取り上げます!

<あらすじ>

主人公・後藤篤子(天海祐希)は会社員の章(松重豊)と2人の子どもと暮らす平凡な主婦。
慎ましい生活を送ってきだが、突如として舅の葬儀代400万円と娘の結婚資金を負担することに。
更には篤子はパート先の契約切れ、章の会社は倒産。夫婦そろって無職になってしまう。
浪費家の姑・芳乃(草笛光子)との同居も始まり、お金の問題は増える一方だった……。

※この記事は作品のネタバレを含みます。

老後の資金が2000万円足りない!?は真実か・・・

みなさん貯金はちゃんとしていますか?私は貯金が全くできなかった両親が反面教師となり、おかげさまできちんと節約し貯金ができる大人に育ちました(苦笑)。ただ、両親が備えをしていなかったのはまだ若く夫婦共働きならなんとかなると思っていたからであり、

さらに母が40歳で車椅子の生活になり介護が必要になるという想定外の出来事が起きたので仕方がなかったと一応フォローしておきましょう。

さて映画のタイトルにもなっている“老後の資金”が2000万円不足するという試算を金融庁が発表し大きなニュースになったのは2019年のこと。ただし、この金額は夫が65歳以上、妻が60歳の夫婦のみの無職世帯で年金だけで暮らし、しかも30年間は夫婦が健康であるという前提条件ではじき出されたものです。

国はよく、サラリーマンの夫に専業主婦の妻、そして子共2人という世帯をモデルとして提示しますが、このような家族構成はもはや時代遅れです。

シングルで子育てしている人や50歳でまだ結婚していない人の割合を示す「生涯未婚率」は増加しています。ただ、晩婚化が進み、50歳を過ぎて結婚する人もいますので(私もまだ諦めていませんが!?)この生涯未婚率という言い方は適切ではないとして「50歳時未婚率」という表現に変更されるとのこと。

女性の平均寿命は男性よりも6歳も長く、夫亡き後を1人でどうやって暮らしていくかも切実な問題です。介護施設で暮す高齢者の男女比は2対8と圧倒的に女性が多いことは厚生労働省の調べでも明らかになっています。

私のような独身、子供がいないご夫婦、独居の高齢者など人生の形は様々で、金融庁が試算した「2000万円」は必ずしもすべての人に当てはまるものではありません。

老後のライフスタイルを納得して自分自身で選択するためにも今からシミュレーションをして備える必要があります。

100歳まで生きることを前提にしたライフプラン作成を

人生100年時代を迎えている日本。どれぐらいの人が100歳まで生きることを前提に真剣にライフプランを考えているのでしょうか。

まずは、老後もらえる年金額をチェックしてみましょう。お手元の「ねんきん定期便」を開いてみてください。

全ての国民が加入している国民年金(基礎年金)月額は平均でわずか約5万6000円。会社員や公務員は国民年金と合わせて厚生年金がもらえますが、性別に関わらず非正規雇用の人が増えています。私のようなフリーランスもですが、非正規雇用含めて正社員でない人は年金だけでは暮らせないという自覚と年金以外の蓄えがより必要なことは間違いありません。

住まいが借家の場合は、当たり前ですが死ぬまで家賃を払わなければなりません。

持ち家の場合には家賃の心配はありませんが、住宅ローンが残っている場合はその返済があります。

住宅関係以外にも住民税、光熱費、食費など、生きている限り色々とお金がかかるのです。

それでも人生はプランどおりにはいかないもの

映画の主人公である後藤篤子(天海祐希)は、サラリーマンの夫・章(松重豊)とフリーターの娘(新川優愛)、大学生の息子(瀬戸利樹)の4人世帯の家計を預かる、ごく普通の主婦です。

夫の章は事を荒立てることを嫌う穏やかで良い人なのですが、家計のことには全く無頓着。家のことは全て妻に任せっきりで家計に無頓着な亭主あるあるです。(後述しますが、私の父もそうでした。)

強気な妹・志津子(若村麻由美)から、長男であることを理由に喪主を押し付けられて父親の葬式代を負担することになってしまいます。

「老舗和菓子屋の創業者として恥ずかしくない葬式にしてね」と姑の芳乃(草笛光子)から釘を刺され、葬儀屋から提示されるままに契約する篤子。最終的に葬儀代は合計400万円に膨れ上がってしまいます。

私も母と父をすでに見送っていますが、棺桶や祭壇はだいだい“松竹梅”のメニューがあり平均的な竹を選ぶように巧みに誘導されます。(観客の多くがシニアのご夫婦で、みなさん思い当たる経験があるのか思わず苦笑いされていました。)

まだ正社員で働いている章には退職金があると安心していたら大間違い。今度はなんと、章の会社が倒産してしまったのです。

後藤家のように勤め先が倒産するという予期せぬ出来事に見舞われて退職金が出ないというピンチも他人事ではありません。

また、我が家のように家族の誰かに介護が必要になるかもしれません。

誰もが金融庁がモデルとした世帯のように、95歳まで健康でいられる保証はないのですから。

篤子お得意の節約メニュー・豚もやし鍋を囲む後藤家。

我が家には貯金が1銭もない!?という衝撃の事実…

今から30年前、まだ私は18歳でしたが主人公の篤子ばりに、家計が火の車になった我が家の母親代わりとして奮闘することになりました。

母がくも膜下出血で倒れ突然介護が始まったのは高校3年の冬。

手術中に命を落とすかもしれないと医師から告げられたことも衝撃的でしたが、母の代わりに家計を預かるようになり、我が家に貯金が一銭もない!?ことにもびっくりさせられました。

命は取り留めたものの後遺症のため言葉を失ってしまった母。しかも心肺停止の状態になり人工呼吸器に繋がれていて、家の中のどこに何があるのかを聞いても答えることはできず……。医療費を支払うためにまとまったお金が必要で、銀行や郵便局の通帳をなんとか探し出して開いてみると、そこに並んでいる数字はなんと「ゼロ」ばかり。

「そんなはずはない。もう一度聞いてこい!」

当時、小学6年だった妹の学資保険があるはずだと父は言い張り、無いものは無いにも関わらず、何度も何度も私は近所の郵便局に聞きに行かされる羽目になりました。

結局、この学資保険は父の収入だけでは生活が苦しくて随分前に母が解約していたことが分かりました。

国民年金は母のように何かあった時の支えになる保険

母の医療費を捻出するのには本当に苦労しましたが、我が家の家計が破たんせずに済んだのは病院のソーシャルワーカーさんのおかげです。

会計窓口にポツンと座っていたセーラー服の私が目に留まったのだと思います。「高額療養費制度や障害者の医療費の支援制度があるから、市役所に行って相談してみなさい」とアドバイスしてくれたのです。「何か困ったことがあったらいつでも言ってください」というひと言にどれだけ救われたか。

もうひとつ大きな支えになったのは母の障害年金です。この障害年金をもらうためには2つ条件があります。ひとつは障害が確定した日から遡って1年間分の国民年金保険料を完納していること、そして年金加入期間のうちの3分の2の保険料を完納していることです。

前の章で国民年金だけでは暮らせないと指摘しましたが、20歳以上で病気や事故などで障害を負った時の支えになる保険とも言えるのです。このことを知らない人が実は非常に多く、自分は受け取れるか分からないから払わないという若い人がいます。しかし、障害年金の存在は知っていて欲しいと思います。

家計を預かる主婦は自分のことはいつも後回し…

母の代わりに主婦をやるようになってからは、毎日5人分の献立で頭の中は一杯でした。自分のことはいつも後回しで、時間もお金も家族のために消えていく日々にため息をつきたくもなりました。それでも大切な家族のために努力できた自分は、自画自賛ではありますが、偉かったと今でも思っています。

そんな経験があったこともあり、老後の資金問題に直面し奮闘する「ごく普通」の主婦を演じる天海祐希さんがとにかく魅力的に映りました。主婦は「ごく普通」「どこにでもいる」と形容されがちな存在です。しかし、天海さんもインタビューで話していましたが、器が大きくないと務まらないのが主婦だと思います。

「人間わがままに生きた方が勝ちよ」とラストシーンで姑の芳乃が篤子に声をかけます。でも、家族の幸せを第一に考えてきた全国にいる“篤子さん達”はきっと身の丈に合ったわがままを選択するはず。

天真爛漫な浪費家で篤子の大きな悩みの種となるも、あっと驚く方法で嫁のピンチを救った芳乃はじめ、夫婦を取り巻く登場人物はみな個性豊かで生き方も様々。生きていく上でお金は必要ですが、老後の資金を貯めることに悪戦苦闘していた篤子が、最終的に自分達の「終の棲家」に関してなるほど!という選択をしています。

やはり、人はお金だけでは幸せにはならず、大切なのは人との繋がりだという当たり前のことにも気づかせてくれます。

「老後の資金がありません」は、自分らしい幸せの形をいまだに模索中の50代で独り身の私も笑えて泣ける極上のエンターテインメントです!

映画『老後の資金がありません!』
ブルーレイ&DVD 2022年4月15日(金)発売
豪華版 ブルーレイ 7,700円(税込)
【特典映像】
■メイキング
■イベント集
大ヒット祈願イベントin今戸神社/完成披露プレミアイベントin日本橋三井ホール
大阪キャンペーン舞台挨拶in阪急うめだホール/初日舞台挨拶in丸の内TOEI
大ヒット御礼舞台挨拶in丸の内TOEI
■ナビ番組
■特報・予告編集

【封入特典】
<初回生産限定>「老後の資金がありません!」脚本
<封入特典>ブックレット
※名称、内容は予告なく変更となる場合がございます。

発売元:TBS 販売元:TCエンタテインメント
©2021 映画『老後の資金がありません!』製作委員会

町亞聖
町亞聖

1995年に日本テレビにアナウンサーとして入社。 報道キャスター、厚生労働省担当記者として様々な医療・介護問題を取材。 パラリンピック水泳メダリストの成田真由美選手を密着取材。 “生涯現役アナウンサー”でいるためにフリー転身。脳障害で車椅子の生活を送る母と過ごした日々をまとめた「十年介護」を小学館文庫から出版。 ヤングケアラ―当事者として全国で講演、医療介護を生涯のテーマに取材・啓発活動を続ける。

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