老人ホームの入居お祝い金とは?その仕組みと構造的な課題を解説

近年、老人ホーム検索サイトなどで目にすることが増えた、老人ホームへの“入居お祝い金”。

利用者としては当然、「老人ホームへの入居でお金がもらえるなら、それに越したことはない」と考えてしまいますよね。

しかし一見メリットだらけの入居お祝い金の仕組みは、老人ホーム運営事業者や、老人ホーム紹介会社をとりまとめる事業者団体から「倫理に反する」と問題視されています。

この記事ではどのような点が問題視されているのか、老人ホームを探す方も知っておきたい仕組みと背景を整理します。また、紹介会社を選ぶポイントも詳しく解説します。

老人ホームへの入居でもらえる「入居お祝い金」とは?

入居お祝い金とは、紹介会社などを通じて老人ホーム等への入居が決まった際、その紹介会社から入居者ご本人、もしくはそのご家族に支払われるお金のことを指します。

老人ホームの紹介会社や、紹介会社が運営しているインターネット検索サービスなどでキャンペーンの一環として多く用いられ、その金額は数万円から十万円と謳われており、会社によって様々です。

一般的にお祝い金は、紹介会社が老人ホームに対して入居者を紹介し、入居が決まったときに、老人ホームから紹介会社へ支払われるお金が充てられます。お祝い金は紹介会社の利用を促進する営業施策のひとつですが、その原資は老人ホームの運営資金と言えます。

事業者団体で「入居お祝い金」に「待った」

ところが、この入居お祝い金ビジネスは業界内で問題視されており、2024年12月に一つの動きがありました。事業者団体からの待ったがかかったのです。

老人ホーム運営事業者の団体である高住連(高齢者住まい事業者団体連合会)では、老人ホーム紹介事業者の質を高め、業界を健全化する目的で「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」を運営しています。

これは施設への入居を検討する方やそのご家族の頼れる相談先として、高住連に届け出られている一定の質を保った老人ホーム紹介事業者を、一覧にしてWeb上で公表しているものです。紹介事業者がこの一覧へ掲載されるには、「届け出にあたっての遵守項目」へ必ず同意しなければなりません。

2024年12月、この遵守項目に、「入居お祝い金やキャッシュバックなどの“倫理に反する行為”を行わない」旨が追記されました。「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」に掲載される紹介事業者には、利用者への入居お祝い金やキャッシュバックをしないことが求められるようになったのです。

「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」のホームページには「福祉サービスの公平性・中立性や透明性を損ね、社会保障費の不適切な費消を助長するとの誤解を与える」ものとして「入居お祝い金やキャッシュバック等の名目による顧客誘導」が挙げられ、高住連では社会保障費の活用のあり方、サービスの公平、中立性の観点から入居お祝い金を問題視していることがわかります。

「入居お祝い金」が問題視されるポイント

なぜこのような遵守項目の改訂があったのでしょうか。“入居お祝い金”は何が問題なのか、よくある2つの事例から具体的にみてみましょう。

1.過分な支払いが、介護サービスの質に影響を及ぼすリスクも

母の老人ホームを探していたAさん。元々知っていた近所の老人ホームに、見学に行ったところ良い印象を受け、そちらへの入居をほぼ決めていました。

しかしその矢先、インターネットを見ていると「このサイトを通じて施設にお問い合わせいただいた方には、入居お祝い金を進呈します」というキャンペーンを目にし、ついお得感に惹かれてそのwebサイトから問い合わせをし、入居時にはお祝い金をもらいました。

Aさんは自分で入居先を見つけていたものの、結果的に紹介会社を経由する形となり、ホーム側は、本来は自力での入居者獲得だったにもかかわらず、「紹介」という扱いで手数料を支払うことになった例です。

このような想定外のコスト負担により、施設側は本来予定していた投資を見送ることがあります。スタッフの増員や設備の改善といった投資が先送りになった可能性もあるのです。入居お祝い金の仕組みが、結果的に入居者の生活環境やケアの質に影響を及ぼす可能性があるのです。

また、お祝い金は、遡れば老人ホームの運営資金が充てられていることは先述した通りです。老人ホームの運営資金には、国民が支払っている社会保険料も含まれているため、まわり回って、国民が適切な介護サービスを受けるために支払っている社会保険料が「入居お祝い金」になっていると言えます。この点で、「社会保障費の不適切な費消を助長するとの誤解を与える」リスクが入居お祝い金にあるのです。

2.紹介業者の「サービス品質」とは別の部分で競争が起き、「紹介の質」の低下を招く懸念

すぐに入居できる介護施設を探していたAさん。
いくつかの紹介会社を利用し、そのうちのX社から提案されたZ施設に入居を決めようと思っていたところ、別のY紹介会社から「うち経由で申し込んでもらえたら、入居お祝い金を進呈しますよ」との声が。
結局、そのお祝い金を理由に、AさんはY社経由でZ施設への入居を決めました。

高住連が「福祉サービスの公平性・中立性や透明性」に言及していた通り、入居お祝い金ビジネスには紹介会社同士が「サービスの質」ではない部分で競うようになり、業界全体の健全な競争を歪めてしまうおそれがあります。

Aさんの事例のように、利用者が「入居お祝い金をもらえるかどうか」で紹介会社を選ぶようになると、丁寧なヒアリングを重ねて最適な老人ホームを入居希望者に提案することで価値提供している紹介業者の「サービス品質」とは別の部分で競争が起きる構造が生じます。その結果として、業界全体の「紹介の質」が下がることも懸念されます。

ここに注目!後悔のない施設探しへ向け、紹介会社を選ぶポイント

老人ホーム紹介会社を選ぶ際には、マッチングの質を重視したいものです。では、どのような点を意識して紹介会社を選ぶと、後悔のない施設選びが実現するのでしょうか。特に注目したいのは、次の3つのポイントです。

1. おすすめの施設について根拠ある説明ができる

まずは、なぜその施設が利用者にとっておすすめなのか、紹介会社が根拠のある説明ができるかどうかという点に注目しましょう。

特に公式サイトやパンフレットに掲載されている以外の内情などにも詳しく、その部分も考慮した提案をしてくれる紹介業者はサービスの質が高く、ミスマッチが起きるリスクを最小限に抑えられると考えられます。

2. 相談者目線で施設とやり取りしてくれる

また、紹介会社がこちらの質問や問い合わせへスムーズに対応してくれるかどうかと併せて、“対施設”のやり取りについても注目してみてください。

具体的には、「利用者側の目線に立って、相談者を守りながら施設とのやり取りを進めてくれるか?」という点です。

紹介会社を利用するメリットのひとつは、「施設と入居希望者の間に入って調整を行ってくれる」ところにあります。

相談者の要望をしっかり伝え、きめ細やかに交渉してくれるかどうかが、理想の施設選びを左右する重要なポイントになるでしょう。

3. 要望に対して、プラスアルファの提案をしてくれる

さらに、要望として言語化できていない潜在的なニーズや、漠然とした不安などを紹介会社がうまくくみ取ってくれるか?という点も、注目したいポイントのひとつです。

よりよい施設を選ぶために専門家ならではの視点から別角度の提案をしてくれたり、こちらの認識で誤っている点があればしっかりと指摘してくれたりする紹介会社は、ある程度信頼できる優良な会社だと考えられます。

これらは一社とのやり取りだけでは判断しづらい部分でもあるため、できれば複数の紹介会社を利用し、対応等を比較・検討してみるのがおすすめです。

関連サイト

老人ホーム紹介センターとは

業界最大級の老人ホーム検索サイト | LIFULL介護

まとめ

老人ホームの“入居お祝い金”は、利用者にとって一時的な金銭的メリットがある一方で、業界団体が指摘するような課題も孕んでいる仕組みです。

紹介会社の利用の際は、「いかに質の高い情報提供とサポートを受けられるか」という視点から、相談する紹介会社を選ぶことが大切になってくるでしょう。

ご自身やご家族にとって本当に心安らぐ居場所を見つけるために、今回ご紹介したポイントを参考に、信頼できる紹介業者と納得のいく施設探しを進めてくださいね。

監修:LIFULL 介護編集長 小菅秀樹

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2025/07/28

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