「こんにちは。見学のお願いをしていたナカムラです」
親が突然倒れた、さぁどうする?
会社員歴20年、その後クリエイティブコンサルタントとして独立し8年。
仕事一筋で生きてきた、介護のことなんてまるでわからない独身ワーキングウーマン、中村美紀50歳。
大好きな母、馬が合わない父の、突然の同時多発介護にてんやわんやしながら、仕事人間としての特性を活かし、「ビジネス思考」で介護を乗り切っていく、壮絶だけど、コミカルな記録。
突然倒れた母。
脳の手術を受けましたが、大きな後遺症が残り、病院退院後は、介護施設に入居することに決めました。
フルタイムのお仕事を抱えながら、母の入居先施設を決めなければいけない私。退院までに段取りよく進めていかないと間に合わなそう。
よって介護施設探しのプロセスをStep5つに分け、家族と協力をしながら、ひとつひとつ進めていくことにしました。
Step1は見学先決定。姉が担当し、結果10件弱まで絞り込みました。
Step2は見学予約。父が担当し、電話をして順調にアポイントを取っていきました。
いよいよ次はStep3、施設見学です。
リーダー:私 メンバー:父・姉
1週目 <済>
Step1:介護施設情報を集め、「見学先を決める」 担当:姉
2週目 <済>
Step2:「見学のアポイント」を入れる 担当:父
3週目
Step3:入居候補の介護施設を「見学する」 担当:みんな
4週目
Step4:「家族会議」を開いて入居施設を決定する 担当:みんな
5週目
Step5:病院に「返事」をする/「親族にも共有」する 担当:私
施設見学は、みんなの集まりやすい週末2日間を使って、見学先候補としてあげた10件弱をまわるスケジュールを組みました。
つまり一日3〜4件まわる予定。効率よく見学しないと、終わりそうにありません。
だからといって急いで見学すると、「あそこを見ればよかった」「あれを聞けばよかった」という抜け漏れが出てきそう。
事前に、施設見学のポイントを整理することにします。
私の本業はクリエイティブコンサルタント。現役編集者でもあります。
現場取材は何度も経験あり。ここは「取材力」を活かして整理します。
企業や店舗など「全体感」の把握をベースとする取材をする場合、私はよく「ヒト・モノ・コト」をベースに考えます。例えば、ヒトはスタッフ、モノは商品、コトはエピソードやそれにまつわるイベントなど。
介護施設を見学する際も、「ヒト・モノ・コト」を軸に考えると整理しやすいと思いました。
また、現場取材は「現地でしかわからない情報を集める」のが鉄則。
介護施設に当てはめて考えてみると、資料やホームページで、施設収容人数・従業員人数・スタッフ一人当たり担当利用者数・医療連携体制など、仕組みの部分はある程度把握ができます。
よって、見学をする際は、事前資料ではわからない、現場でしか得られない情報を中心にチェックすることにしました。
数が多そうなので、一番の重視するものは何かも意識して洗い出してみます。
第一にヒト。
介護施設では「スタッフ」と「利用者」と二軸で確認したいと思いました。
まずは「スタッフ」について。
「男女・国籍」など、どんな方が、どんな「職種」に就いているのか。「連携」はどうなっているのか。また、「食事介助」「風呂介助」「トイレ介助」の様子も見たいと思いました。
次に「利用者」について。
どんな方が利用されているのか。母が入居した際に、お友達が作れるかどうかが気になります。男女比や、年代も確認することにしました。
また、ヒトについては「表情」に注目したいと思いました。
なぜなら、働いていても、利用していても、ストレスがあれば表情に出るはずだからです。介護施設とは末長くお付き合いすることになります。ストレスの矛先が母にいくとまずい。よって「人の表情」を重視することに決めました。
第二に「モノ」。
介護施設では「建物そのもの」や「設備」にあたると考えます。
確認したい部分をあげてみると、「部屋(ベッド・収納)」「お隣さんとの距離(多床室の場合)」「風呂・トイレ・水まわり」「談話室などの共有スペース」「受付」「リハビリ設備」「駅からの距離や駐車場」など。
そして施設・設備に関しては、新築や最新設備など「新しさ」よりも「清潔感」に注目しようと決めました。
第三に「コト」。
介護施設では「催し物」や「医療連携」、「契約」などにあてはめてみます。
確認したい部分は、「イベント内容」「理容」「病院連携・医師診断」「リハビリ体制」「昼夜間連携体制」「料金・入退去ルール」など。
最終的には「日々楽しく、安心して過ごせるイメージが湧くか」を軸に確認することにしました。
目的:資料ではわからない現場ならではの情報を収集して、入居後のミスマッチが起こらないようにする。
事前準備:資料やホームページでわかる、施設収容人数・従業員人数・一人当たり人数・医療連携体制などは、事前に把握してから見学にのぞむ
現場取材方向性:「ヒト・モノ・コト」を軸に整理する。一番重視するものを☆と予定しておく。
最終的には直感を重視し、現地で感じたことは書き留めるようにする。
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◆ヒト…人(スタッフ・利用者)まわり
スタッフについて:男女・国籍/職種/連携/食事介助・風呂介助・トイレ介助の様子
利用者について:どんな方が利用しているか(お友達作りやすいか目線)、など。
☆私の注目ポイント「スタッフ・利用者の表情」
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◆モノ…建物(施設・設備)まわり
部屋(ベッド・収納)/お隣さんとの距離(多床室の場合)/風呂・トイレ・水まわり/
談話室などの共有スペース/受付/リハビリ設備/駅からの距離・駐車場、など
☆私の注目ポイント「新しい<清潔感」
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◆コト…催し物・病院連携・契約まわり
イベント内容/理容/病院連携・医師診断の様子/リハビリ体制/昼夜間連携体制/
料金・入退去ルール、など。
☆私の注目ポイント「日々楽しく・安心して過ごせそうか」
なかなかのボリュームになりました。
見学は父・姉と一緒に行くので、複数人数で訪ねる利点を活かし、「抜け漏れ防止」と「それぞれがいろいろ感じること」を大事にしようと決めました。
見学当日。父と姉と三人で施設に向かいます。
(この時点はコロナ前でした)
持ち物は、事前に送付してもらった「施設資料(パンフレットなど)」、ペン、スマホ(カメラ)です。
複数施設を見学すると、どこがなんだったか混乱すること間違いなし、と予測できたので、気づいたことは手元資料に直に書くことにし、荷物を最小限にしました。
「こんにちは。見学のお願いをしていたナカムラです」
「お待ちしていました」
気持ちの良い挨拶、嬉しいです。担当スタッフの方が来て、別室に通していただき、見学資料をもとに一通り施設説明を受けました。
その後、お部屋の確認です。事前にリストアップしてあった内容をスタッフさんに伝え、いろいろ見せてもらうことにしました。
「撮影してもいいですか?」
今後複数見学するのに、混乱するのを避けたいので、問題のない箇所は写真を撮りたい旨を伝えました。
「利用者さまのお顔が映らなければ構いませんよ」
SNSなど公に掲載するのではなく、施設はどこも似ていて混乱しやすいので自分の管理のために撮影したいと言うと、意図を理解してくれ、OKをもらえました。
写真撮影は、依頼をしてみると、ほとんどの施設で承諾してくれました。
写真を見ると、その場の様子や施設雰囲気を想起しやすい。私は、撮影許可が得られると、かたっぱしから撮影しました。
お部屋、風呂、トイレ、談話室なども見せていただき、質問などがあれば確認をして終了です。
どこの施設も、見学の流れは概ね一緒でした。
次の施設にて。
「おトイレ介助は二人体制ですか?」
「うちの施設は、生活要全介助の方の場合は二人で行っています。ある程度ご自身で行える場合はスタッフ一人というケースもあります」
なるほど。
母は生活要全介助。安全性重視のねーちゃん、なかなか鋭い質問をしてくれます。
介護施設の、スタッフ一人あたりで担当する利用者人数は1:3と決まっています。
例えば平均をみると、特別養護老人ホームでは、多少室で1:2.2人、ユニット型個室で1:1.7人。
細かいルールは諸々あるのですが、つまり単純に考えると、スタッフ一人あたりの担当人数が少なければ少ないほど、サービスは手厚くなるのではないか。私はそう考えていました。
ですが、見学をしてわかったのは、そうではなかったこと。
スタッフ一人あたりの担当人数が多めの施設でも、効率的かつズムーズな連携で、サービスレベルが高いと感じたところがありました。これは発見でした。
次の施設にて。
「カラオケ大会があるんですね」
「そうなんです。うちの施設は、ボランティアの方が来てレッスンをしてくれるんですよ。月に一度大会を実施しているんです」
なるほど。
カラオケ好きのとーちゃん、なかなか鋭い質問をしてくれます。
施設は、利用者に飽きずに過ごしてもらうよう、またリハビリ効果を兼ねて、どこも工夫した催し物を実施しています。
この催し物は、施設特性のひとつ。散歩・体操など運動系に強い、塗り絵・絵はがきなど手先作業系が多い、頻度が多い、季節イベントが手厚い、など施設によって違いました。
入居する親の好みとマッチしていると楽しく過ごせそうです。
このように、なるべくその施設の特性をつかもうといろいろ質問をして、二日間でアポイントをとっていた施設はなんとか全件見学することができました。
見学前は、資料ではわからなかった施設の違いが、見学すればわかるものか少々不安がありましたが、行くとその違いがわかりました。
中には、不安を感じる施設もありました。実際に気づいたことの一部を列記してみます。
・部屋自体は新しくて綺麗だが、備品ルーム内がぐちゃぐちゃだった。
・新築施設で何もかも新しいが、スタッフも一期生が多い。その割に教育に不安が残る。
・施設も設備もキレイなのに、働いているスタッフさんの顔に笑顔なし。
・見学担当をしてくれているスタッフさんの説明がとげとげしい。業務内容に不満?
・受付スタッフに質問すると「それは私の担当じゃない」感満載。職種連携がうまくいってない?
など。
調べてみると、「見学時には雰囲気を確認する」とは、どの本・サイトでも書かれていることなのですが、実際見学をしてみて、資料と現地は印象が違う!と、改めて見学の重要性を実感したのでした。
見学をして、施設の特性がいろいろ見えてきました。
「あの施設があれだな」
「待って、とーちゃん」
感想を話したいのだろうけど、収集した情報が多くてまだ私の頭の中はごちゃついています。
他人の意見を聞いて、自分の意志が左右されてしまう前に、取材内容を吐き出したいと思いました。
いわゆるレポートの作成です。
これからどの施設にするか決める家族会議を行いますが、そこにもレポートがあった方が議論も進むはず。
私は現役編集者(しつこい)。可視化は得意分野です。
急いで一覧を作り、家族会議にのぞみます。
気になる家族会議の様子は…おおっと、スペースが足りない!
次回へ続きます!
次回は、
親の介護施設選び、家族みんなが納得する進め方とは?大事なのは「事前準備」と「意思決定プロセス」!
をお送りします。
(株)リクルートフロム エー、(株)リクルートに20年在籍し、副編集長・デスクとして10以上のメディアにかかわる。2012年に独立し、紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ組織コンサルタントなどを請け負う。 国家資格キャリアコンサルタント/米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。
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