「では、どこの施設に入居するのか決めてもらえますか」
親が突然倒れた、さぁどうする?
会社員歴20年、その後クリエイティブコンサルタントとして独立し8年。
仕事一筋で生きてきた、介護のことなんてまるでわからない独身ワーキングウーマン、中村美紀50歳。
大好きな母、馬が合わない父の、突然の同時多発介護にてんやわんやしながら、仕事人間としての特性を活かし、「ビジネス思考」で介護を乗り切っていく、壮絶だけど、コミカルな記録。
突然倒れた母。
緊急手術で脳にメスを入れ一命を取り留めましたが、大きな後遺症が残り、生活全般に対して介助が必要になりました。
一時期は命も危なかったのですが、容態が安定するとリハビリを開始。すると病院からすぐに「退院後はどうするか(介護施設に入居するのか、在宅介護にするのか)を決めてほしい」と決断を迫られました。
当初は「家族の面倒は、人に任せず家族が見るべき」という固定感念や、人に任せる罪悪感に襲われた私たち家族。しかし、母のために一番避けなければならないことは「介護が継続できない状況になること」だと思い直しました。
感情的に流されず冷静に判断するために、「医師の説明」「リハビリ見学」「有識者の助言」「経験者の体験談」など、できるだけ情報収集を徹底。
その上で「家族会議」を開き、やっとの思いで「介護施設入居」の結論を出しました。安定的な介護環境の提供を最優先に考えた結果でした。
病院ソーシャルワーカーにその旨を伝えると、すぐに次の要望を出されました。
「では、どこの施設に入居するのか決めてもらえますか」
ソーシャルワーカー曰く、入居先施設が決まった後の施設と病院との調整には、1カ月程度はかかるので、なるべく早く決めてほしいそう。
親が倒れると、初めてのことに対して、次々と決断を迫られます。
えー!やっとの思いで決めたのに、もう次のことまで決めなければならないの!?
この繰り返しです。
施設決定までにかけられる時間はどのくらいあるのかを整理すると…母のリハビリは3カ月想定で、終わる頃には退院できるだろうとのこと。
リハビリ開始してもう1カ月。病院&施設の調整に1カ月とすると…1カ月の間に決定しなければならないことになります。
「約1カ月後にお返事すればいい、ということですね。わかりました。そこまでに決められるよう動きます」
気丈に返事をする私。ですが、結構な焦りを抱いたことは隠しきれませんでした。
母の入居する介護施設は、約1カ月間で決めなければならなくなりました。
「やります」とは言ったものの、どう決めればいいのかわかりません。
わからない場合は情報収集。基礎情報を知らないと判断もできないだろうと、下調べをすることにしました。
まずは自分でお勉強。取り急ぎ本を数冊買って、目ぼしいサイトをざざざと調べました。
そして、わからないことがあると、病院ソーシャルワーカーのもとに行きました。足繁く通い、いろんな資料をもらい、話を聞きました。
ここまですると、いろいろなことが見えてきました。
・施設は「公的施設」と「民間施設」に大別される
・「民間施設」はサービスが選べる傾向にある。よって料金も高めの傾向
・親が入居すると、日常的に通うことになるので、「家から近い」方が利用しやすそう
・どの施設にもコンセプトや方針がある。これを「施設特性」としてつかみ、自分たちの望むサービスとマッチングが図れると、満足度が上がりそう
・「施設特性」をつかむには「見学必須」とした方がよさそう
(筆者調べ)
そして、介護施設は、公的施設であれば自治体サイト、民間施設であれば『LIFULL介護』など有料老人ホーム検索サイトで調べられることがわかりました。
ある程度基礎情報が得たことで、施設探しのポイントもみえてきました。いよいよ介護施設探しのプロセスを考えます。
約1月後にお返事をすると、ソーシャルワーカーに約束しました。よって、かけられる時間は「約1カ月」。
このように締め切りがはっきりしている前提で物事を動かさなければいけない場合は、「プロセスマネジメント」が有効です。
「プロセス」とは「工程」のこと。「マネジメント」とは「管理」のこと。
「プロセス(工程)」と「かける時間」を見える化し、「管理」しやすい状況を作るのです。
まずは大まかにプロセスを整理すると、「施設資料を集める」→「見学先を決める」→「見学する」→「施設を決定する」→「ソーシャルワーカーに報告する」と、5ステップにまとまりそう。
そして、1Stepを1週間(1W)で行うと、5週目にはソーシャルワーカーに返事ができることになります。
これを軸に整理してみます。
1週目 Step1:「介護施設情報」を集める
∟公的施設は自治体サイトをチェック/民間施設は有料老人ホームから資料請求
2週目 Step2:見学先をしぼり、「見学のアポイント」を入れる
3週目 Step3:入居候補の介護施設を「見学する」
4週目 Step4:「家族会議」を開いて入居施設を決定する
5週目 Step5:病院に「返事」をする/「親族にも共有」する
プロセスを考える際に、追加したのが「Step5:母親戚への共有」です。
母方親族のみなさんはとても仲が良く、母が倒れ、我々家族が大変になったときには、いろいろ気遣い、何かと手伝ってくれていました。
ここまでしてくれるのは、母が親族へ真摯に接していたからだろう、と日頃から思っていました。であれば、私も真摯に接したい、という強い思いがありました。
かつ、今まで母方親族の中で、倒れて介護施設に入居するというケースは、あまり聞いたことがありません。
よって、「なぜ?」母は介護施設に入居するのか、「なぜ?」この介護施設に決めたのかなど、まずは疑問が浮かぶだろうから、親戚一同が納得する形で説明できるようにしたい、と思いました。
説明ができるくらい、はっきりとした「理由」を作りながらステップを進めていけば、ブレた判断にならないはず。これは工程管理をする上でも大事なポイントになりそうです。
こうして、プロセスの詳細化と、マネジメントをする上でのポイントが見えると、実行できるイメージが湧いてきました。
「いいぞ!」
ここまで設計できれば此方の物。あとは動かすだけです。
ん、まてよ!? いざ動かそうとしたときに気づきました。
「一人じゃ無理だな…」
私は現役労働者、お仕事もフルで行っています。
編み出した「入居介護施設探し5ステップ」は、一人で全部背負うと、約1カ月では終わりそうにありません。
そこで家族にも協力を仰ぐことにしました。
人にお願いし、協力を得ながら物事を動かす場合は、「メンバーマネジメント」が有効です。
「メンバーマネジメント」とは、リーダーがメンバーを牽引し、ゴールへと導くこと。
ポイントは、メンバー各々の特性を見出し、能力を発揮しやすい状況を作ることです。
今回お願いするメンバーは姉と父。二人の特性を整理し、お願いする内容を決めます。
姉は、事務仕事が得意。Step1の”見学したい施設を決めて、施設資料を集める担当”に決定。
父は、人と話すのが得意。Step2の”施設に電話して見学予約を入れる担当”に決定。
私は、企画・発想が得意。管理者経験があるので“全体統括”に決定。各工程で滞りが発生したら、私がリーダーとして解決策を編み出し、各担当と相談しながら乗り越えよう、と決めました。
1週目/Step1:介護施設資料収集…姉
2週目/Step2:介護施設見学先アポイント…父
3週目/Step3:介護施設見学…みんな
4週目/Step4:家族会議で決定…みんな
5週目/Step5:病院に返事、親族に共有…私
全体統括:私
いい感じにおさまりました。
いよいよ任命。姉と父に状況を伝え、設定した役割をお願いしてみます。
「おねーさま(お願いするときだけ丁寧に呼びます)。1カ月で介護施設を決めなければいけなくて。あなたを、”見学したい施設を決めて、施設資料を集める担当”に任命します! お願い、やって」
「わかった。いーよー」
姉はとても物わかりが早い。自治体ホームページや、介護施設検索サイトをいくつか伝えると、実行できるイメージが湧いたのでしょう、快諾してくれました。
「おとーさま(お願いするときだけ丁寧に呼びます)。1カ月で介護施設を決めなければいけなくて。あなたを、”施設に電話して見学予約を入れる担当”に任命します! 日程は指示するから。お願い、やって!」
「わかった。いーよー」
私は知らない人に電話をするのは苦手なのですが、父は躊躇なくガンガン電話をかけられるタイプ。抵抗を示すことなく、これまた快諾してくれました。
あら、驚くほどスムーズ。
こうして任命式?は無事終了しました。
次は、メンバーが動きやすい状況を作るために、細かい段取りイメージや、各ステップのゴール、期待している役割などを整理しなければいけません。
そして迷わないように具体的な指示に落とし、動き出しのきっかけを作る予定です。
これも早くやらないと、スケジュールが間に合いそうにありません。
姉、父は、期待通りに動いてくれるのか!?
母の入居する介護施設は、無事探せるのか!?
各メンバーてんやわんやな様子は…おおっと!スペースが足りない!
次回へと続きます!
次回は、入居施設は見学必須!親の入居する介護施設の「見学先決定」までを「マネジメント」するをお送りします。
(株)リクルートフロム エー、(株)リクルートに20年在籍し、副編集長・デスクとして10以上のメディアにかかわる。2012年に独立し、紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ組織コンサルタントなどを請け負う。 国家資格キャリアコンサルタント/米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。
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