親が突然倒れた、さぁどうする?
会社員歴20年、その後クリエイティブコンサルタントとして独立し7年。
仕事一筋で生きてきた、介護のことなんてまるでわからない独身ワーキングウーマン、中村美紀49歳。
大好きな母、馬が合わない父の、突然の同時多発介護にてんやわんやしながら、仕事人間としての特性を活かし、「ビジネス思考」で介護を乗り切っていく、壮絶だけど、コミカルな記録。
突然倒れた母。
緊急手術を行いました。
手術後は容態が不安な時期もありましたが、数カ月もすると落ち着いてきました。
いよいよ退院を視野に入れ動き始めます。
失語・失行、生活要全介助となった母は、言語リハビリテーションを重視し、退院後は「言語聴覚士がいる介護老人保健施設」に行くことに決めました。
希望の介護施設に申し込むと、施設責任者の方が、母の病院に様子を見にきてくれました。
病院の担当ソーシャルワーカーとも情報のやりとりをし、母の受け入れ体制を考えてくれているようです。
そこで、介護施設責任者に相談がある、と言われました。
「うちの介護施設では、入院なさっている病院のような細かいお粥の対応ができません」
え、え、えー! 大問題発生です!!
母は、もともと食欲旺盛な方ではありません。容態が不安定な時期は、食欲がなかなか戻りませんでした。
食欲は体調に直結します。特に回復力や抵抗力の低い高齢者だとなおさら。一日の必要カロリーを摂取しないと、体調悪化を招き、ますます容態が不安定になるのです。
加えて、母はそもそもお粥が好きではありません。
ですが、実は、「母のお粥嫌い」に気づけたのは、食事を食べない日が続いたからでした。
体調の回復がみられると、点滴から食事に切り替わります。その際、消化のしやすい「お粥」から始めるのですが、その「お粥」をなかなか食べなかったのです。
病院から「母がお粥を食べない」と連絡が来て、あー嫌いだった!と気づき、その旨を伝えました。
失語・失行の母は、自分で食べ物の好き嫌いをうまく説明できません。この点は家族が気づき、最初に病院に伝えるべきでした。今でも大反省です。
病院では、お粥の硬さを調整してもらいながら、なんとか食べられるようになった、という現状でした。
たかがお粥、されどお粥。
高齢患者の、食欲が戻らないということが、いかに大変なことか、私はこの一連の件で初めて実感しました。
この、いろいろ調整してやっと食べられるようになった「お粥」の対応が、介護施設ではできない、というのです。
大問題発生です。
ん、ちょっと待て。
「お粥」の何が問題なんだろう?
母が調整して食べられるようになった「お粥」とはどんなものか、私はわかっていません。
「何を」「どう調整して」母は食べられるようになったのか把握せねば、と思いました。
そこでソーシャルワーカーに聞いてみました。
「お母さんは七分粥なんです」
ん? しちぶがゆ?
聞いたことはありますが、いわゆる「お粥」との違いがわかりません。
わからないときは現状把握。
「お粥」の全貌を調べることにしました。
するとなんと! 結構な種類があるではありませんか!
種類の違いはお米と水の割合のよう。
比較するために、お粥だけでなく白米・軟飯から整理してみます。
(諸説あるようですが、一般的な例を列記します)
・ 白米(はくまい)
米1:水1.2
・ 軟飯(なんはん)
米1:水2
・ 全粥(ぜんがゆ)
=五倍粥
米1:水5
・ 七分粥(しちぶがゆ)
=七倍粥
米1:水7
・ 五分粥(ごぶがゆ)
=十倍粥
米1:水10
・ 三分粥(さんぶがゆ)
=二十倍粥
米1:水20
・ 重湯(おもゆ)
米1:水10〜20(米はこす)
※「お米」の部分を「お粥」、「水分」の部分を「重湯」と言う
※名称は「分」と「倍」の言い方がある
「分」…全粥を基準とした米の量の割合
「倍」…米に対しての水の割合
お粥の全貌がわかったところで、ソーシャルワーカーにもう一度、母の様子を詳しく聞きに行きました。
すると、以下のことが確認できました。
「お母さんは、点滴から食事に切り替える際、水分が多い『五分粥』から始めたのですが、あまり食べませんでした。嚥下・消化器官に問題はないので、医師と相談し、様子を見ながらお米の量を増やし『七分粥』に切り替えたら、少し食欲が出てきました。この先は『全粥』対応も視野に入れています」
なるほど、意味がやっとわかりました。
お恥ずかしながら、お粥に対して、ここまで向き合ったことはありませんでした。
たかがお粥、されどお粥(二回目)。
ですが、これで終わりではありません。次は、施設の対応可能範囲を把握しにかかります。
病院の、お粥の調整は、細かく行ってくれていることがわかりました。
介護施設では、そこまでできない、ということですが、どういうことなのでしょう。
確認したら、普通のご飯の硬さ意外で対応できるのは「重湯」が「五分粥」か「全粥」か「軟飯」ということでした。
母は「七分粥」でやっと食べられるようになりましたが、「五分粥」だと食べません。
ああ、ややこしい!
「マトリクス」を使って現状を整理してみます。
(「マトリクス」とは、縦軸や横軸に分類することで、関係性を示したものです。その形は特に定義がないようなので、「お粥対応マトリクス」として、独自に考えてみます )
現状を整理してみると、病院対応の細かさに驚きます。
だからといって、介護施設も結構対応してくれている方なのでは、と思いました。
しかし、家事・炊事が苦手な私。「お粥」の対応なんて、まったくピンときません。
どうしたものかと、ソーシャルワーカーに相談しに行きました。
「ダイジョブですよ。介護施設と連携し、退院までに今の食事を、介護施設の食事に合わせて順次切り替えていきます。消化も飲み込みも順調なので、白米まで視野に入れているんですよ」
おー!
それは、例えるなら食事のリハビリテーション!
介護施設に行っても困らないよう、行く前に病院で訓練してくれる、ということですね。
さすがソーシャルワーカー、頼りになります。
聞くと、どうも「お粥嫌い」は一般的にあるようで、どこの病院・介護施設も想定内とのこと。これは安心しました。
しばらくすると食事の対策も進み、母は「全粥」「軟飯」「白米」まで問題なく食べられるようになりました。
介護施設に行っても問題のない状態です。
そして無事退院し、介護施設に引っ越しました。
ですが…介護施設で、新たな食事問題が起きました。
介護施設での問題は、「お粥」とはまったく別のところで起きました。
右半身麻痺の母は、右利きですが動かないので、左手でご飯を食べます。
これがなかなか右手のようには上手く出来ません。
うまく出来ないと、疲れてしまいます。疲れると、ご飯を食べるのをやめてしまうのです。
だからといって、最初から全介助でいくと、使わないことで機能が落ちてしまいます。これは避けなければなりません。
よって、リハビリテーションも兼ねて、最初はなるべく自分で食べるようにし、しばらくしたらスタッフの方が介助する、という形で自立をうながしていました。
この状態は病院でも同様でした。疲れない程度の自立と食事介助。このバランスが難しいところです。
病院対応を受け、介護施設でも同じ対応にしてもらっていたのですが、介護施設では食べなくなってしまいました。
この時は「お粥」ではなく「白米」でしたので、「お粥」が原因ではありません。
介護スタッフの方と話しました。
「利き手ではない方で食事をするというのは、ご本人にとっては相当ストレスなんです。その上、環境の変化というのも大きなストレスになります。負担が重なったせいかもしれません」
なんと繊細なバランスなのでしょう。
ん? ちょっと待て(二回目)。
うまく動かせずに「疲れる」?原因が「疲れる」ということなら、「疲れない」ようにすればいいのでは?
問題解決思考のわたくし、苦手な家事・炊事観点から視点をズラしてみると、今度は打ち手が浮かびました。
ダメもとで介護スタッフに相談してみることに。
余談ですが、私は、プロフェッショナルに相談する時は、なるべくたくさんの「事象」と、それに対する考え方の例として「私の考え」を伝えるようにしています。
たくさんの事象があれば発想しやすい、それに考え方の例があれば(例えば私の考え)なお発想しやすいのでは〜と考えるからです。
そして、プロフェッショナルなら、情報があればそれを元に、プロの知識と経験で、私の想像を超える、新たな発想をしてくれるはず、と期待します。
これは、私が顧客から何か相談された時、「たくさんの事象(現状把握)」と「担当者さんの考え(発想のヒント)」をもらえると、解決策が考えやすいことに起因しています。何かを相談したい時は、逆に自分がされたいことをしてみよう、と思ったのです。
相談した介護スタッフには、参考になればと、思い当たる母の食事情報を全て伝えてみました。
「『疲れ』が原因なら、なるべく『疲れない食事形態』って何か考えられませんか。例えば、麺とか。病院では煮麺を好んで食べていました。あと、必要摂取カロリーに満たない時は、栄養ジュースを付けてもらいましたが、口当たりが甘いせいか、これが大好きでした」
すると介護スタッフさんが考えてくれました。
「それなら、麺は週一回程度出ますので、そちらは一口大に切りますね。それと『食べやすい形態』にするなら…例えば『おにぎり』はどうでしょうか」
でたー!新たな発想!うちの母、おにぎり好きですー!
「おにぎり」であれば利き手は関係ありません。これならうまく食べられそうです。
解決の道筋がみえ、後日試していただくことにしました。
結果、ご飯を小さなおにぎり二つにしたところ、ひとつは食べられた、しかし、ひとつだと必要摂取カロリーに満たないので、栄養ジュースもつけたところ、好んで飲んだ、とのことでした。
小さいおにぎりひとつと栄養ジュースで、必要摂取カロリーは満たすことができるようです。
しばらく様子を見ましたが、問題なく食べていることが確認できました。介護施設に慣れてきたのもあるでしょう。これで、母の食事問題解決です。
いや〜ほっとしました。
「お粥」問題発生から「おにぎり」への着地まで、道のりは長かった〜。
食事ひとつで、容態が悪くなってしまう母を目の前にして、緊張感ある日々を過ごしてきましたが、こうしてやっと落ち着くことができたのでした。
次回「親が『認知症検査なんて受けたくない』と拒否! 高齢者への『伝え方』を工夫する」をお届けします。
(株)リクルートフロム エー、(株)リクルートに20年在籍し、副編集長・デスクとして10以上のメディアにかかわる。2012年に独立し、紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ組織コンサルタントなどを請け負う。 国家資格キャリアコンサルタント/米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。
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