「なぜ罪悪感を持つの?」
親が突然倒れた、さぁどうする?
会社員歴20年、その後クリエイティブコンサルタントとして独立し7年。仕事一筋で生きてきた、介護のことなんてまるでわからない独身ワーキングウーマン中村美紀49歳。
大好きな母、馬が合わない父の、突然の同時多発介護にてんやわんやしながら、仕事人間としての特性を活かし、「ビジネス思考」で介護を乗り切っていく、壮絶だけど、コミカルな記録。
母が突然倒れました。
「入浴後に牛乳を一杯飲む」「肉でなく魚」「減塩を選ぶ」など健康に気を遣っていた母が!
夕食後には消化促進として、毎晩2kmのウォーキングを10年以上続けていた母が!
ボケ防止としてクイズゲームを1日30分きっちり行っていた母が!
こんなしっかりした母が!…突然倒れました。
約束は守る、決めたら迷わない、段取りが早い、で、ご近所さんの間でも有名な母。
町内会役員としても頼られ、「一番長生きしそう」と言われていたので、ご近所さんはもちろんのこと、親族、母友人らも大驚きです。
母は手術をし、一命は取り留めましたが、右半身に麻痺が残り、生活は要全介助。そして失語・失行になりました。
父は動揺が激しく高齢、姉は遠方在住なので、必然的に私が介護主体者に。
とはいえ、両親ともにそれまで健康そのものだったので、私にとっては「介護ってなに?」状態です。
でも、容赦無く聞かれます。
「退院後の生活は、どうされますか? 在宅介護ですか? 介護施設に入居しますか?」
げ! 介護施設!? そうか、利用を考えなきゃいけないのか…
「リハビリテーションに対してはどう考えられていますか?」
げげ! リハビリテーションって、リハビリか。えっと何するんだっけ…
「介護施設はどこにしますか?」
げげげ! どうするかも決めきれてないのに、施設決めろって…
でも明日も明後日も仕事だよー!
もう、どう考えればいいの!?
あまりにも突然倒れたので、まだ動揺を抑えきれてない自分。
ですが主介護者としては、全てにおいて決断をし、問われる質問に応えていかないといけません。
矢継ぎ早の質問は、まるで責められているようで、悲しいのに、泣く暇も与えてくれない感じ。
しかも、冷静になろうと必死になり、決断をしなければならないと思えば思うほど、
「介護施設に入居させるのは、母に悪いかも。自分が世話をしなきゃいけないかな」
「親族にも手伝ってもらいたいけど、協力してもらうのは悪いかも〜」
「周りの目も気になるな。ご近所や友人たちからみたら、どう思うだろう?」
などと、なんだかわからない感情が、判断を鈍らせます。
なんだこの感情…これは“罪悪感”か!
何か決めようとするたびに、この“罪悪感”が常につきまとい、ますます混乱してしまうのです。
これはまずーい!!!
社会人になって数十年。お仕事経験は長いわたし。
ビジネスでは「感情的判断」はNGとされることから、介護の知識はなくとも「感情に流された判断をしてはいけない」ことには気づけました。
そこで思いついたのです。
「感情に流されずに冷静に判断する…そうか、介護も『ビジネス思考』で考えてみればいいんだ」
「ロジカルシンキング」とは、「物事を体系立てて整理し、一貫して筋が通っている考え方」のこと。
日本語でいうと「論理的思考」です。
問題を要素に分けて整理し、結論を導き出すのに有用とされています。
冷静な判断を阻害する“罪悪感”をやっつけたい。
「ロジカルシンキング」を活用し、罪悪感という感情的思考を、論理的思考に変換。
罪悪感を持つ原因を探り、それに対する解決策を考えられれば、罪悪感そのものを払拭できるのでは、と思いました。
そこで、罪悪感をやっつける方法を以下のステップで整理してみます。
物事を解決するにはまず、適切な現状把握から。
罪悪感って「いつ」持つの?
罪悪感にも色々ありあそう。いつ・どんなときに罪悪感が湧くのかを整理できれば、「罪悪感の種類」が見えてきそうです。
罪悪感は「対人」から生まれる感情なので、「人軸」で整理してみます。
「罪悪感の種類」が整理できたところで、今度は原因追求です。
罪悪感って「なぜ」持つの?
罪悪感を持つのはその向こうに理由があるから。「なぜ」を繰り返すことで、その理由を紐解いてみます。
(1)「自分が世話しなきゃ」(責任からくる罪悪感)
「なぜ罪悪感を持つの?」
「施設に入れるのは悪いと思っている」
「なぜ悪いの?」
「母の世話を人任せにするから(家族の世話は家族がするべき、という価値観が根底にある)」
「なぜ自分で世話しないの?」
「生活要全介助は時間的にも、スキル的にも難しい」
→(1)罪悪感の原因「物理的には無理なのに、自分が世話をした方がいいと思っている」
(2)「協力してもらうのは悪い」(遠慮からくる罪悪感)
「なぜ罪悪感を持つの?」
「人に頼むのは悪い」
「なぜ悪いの?」
「相手の都合もあるから(相手の都合を壊す可能性)」
「なぜ相手の都合を壊すの?」
「協力してほしいタイミングがなかなか予測ができない。母の容態により突然依頼することもある」
→(2)罪悪感の原因「突然依頼すると迷惑だとわかっているのに、協力を仰がなければならない」
(3)「周りの目が気になる」(体裁からくる罪悪感)
「なぜ罪悪感を持つの?」
「施設任せと思われるのが嫌だ」
「なぜ家族が世話をしないの?」
「生活要全介助は時間的にも、スキル的にも難しい」
「なぜ難しいの?」
「父は高齢・姉は遠方・自分は現役労働者で、在宅介護に注力できる環境にない」
→(3)罪悪感の原因「家族が在宅で介護をすることは物理的に難しいのに、周囲からは『施設任せ』と思われそう」
「なぜか」を繰り返すことで、ぼんやりとしかわからなかった「罪悪感を持つ理由」がはっきりしてきました。
明確化していくこの作業が、介護にまつわる罪悪感を払拭するためには重要だと確信していきます。
罪悪感の原因がみえてきたところで、今度は打ち手の考案です。
解決策の方向性だけでもみえてくると、あとはアクションを起こすだけ、と安心できます(私の場合)。
そこで、ひとつひとつ解決策を考えてみます。
罪悪感理由(1)「物理的には無理なのに、自分が世話をした方がいいと思っている」
自分は現役労働者、働かなければならないので、生活全介助の母を支えることは物理的に難しいと改めて自覚。それだけでなく、介護サービス利用など、誰かに支援をお願いするなら、ますますお金は必要。
であれば介護をするために仕事を辞める、と考えるのではなく、「どうすれば継続的に介護できるか」という考え方に切り替える。
罪悪感理由(2)「突然依頼すると迷惑だとわかっているのに、協力を仰がなければならない」
人に物事を頼むのは悪い気がしてしまう。それが突然だとなおさら。
であれば、日々の様子や状況をこまめに共有することで、お願いしなければいけない理由や背景を理解してもらえるようにし、突然感を少しでもなくすよう努める。
罪悪感理由(3)「家族が在宅で介護をすることは物理的に難しいのに、『施設任せ』と思われそう」
施設にお願いするとしたら、なぜ施設にお願いするのか、判断の理由をはっきりさせ、家族の意志として確立させれば、誰に何を言われても気にならないはず。
いろんな罪悪感に対し、なぜ湧くのか、どうすれば払拭できるのかを整理したら、罪悪感が払拭できるだけでなく、介護に対する考え方や姿勢、どう行動すればいいかなども少し見えてきました。
整理して思ったことは、「介護は自分一人では無理」というそもそも論。心底そう思えるかがカギ。なぜなら、これが真に納得できていないと罪悪感が拭えず、次のステップに進めないのです。
そのためには、感情的でなく論理的に考えることが大事。
なるべく自分の生活を守る。周りの人に遠慮なく協力を仰ぐ。周囲の目を気にしない。
「あなたはあなたのままでいい」「わたしはわたしのままでいい」
自分にそう言い聞かせながら、この先も介護に向き合っていこうと思いました。
・ 介護に動揺している段階では、何をするにしても「罪悪感」がつきまとう
・ 感情に流されず、問題解決の視点で論理的に考えることが大事
・「現状把握(課題特定)」「原因追求」「解決策考案」の3ステップで整理すると早い
・ 判断に「理由」と「根拠」を持てば、罪悪感が払拭できそう
・ 大事なのは「介護は一人では無理」と早々に割り切ること。問題解決はここからスタート。
次回は、
◯作っておくと安心!介護の困りごと「相談先」を「ロジックツリー」で整理する
をお届けします。
(株)リクルートフロム エー、(株)リクルートに20年在籍し、副編集長・デスクとして10以上のメディアにかかわる。2012年に独立し、紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ組織コンサルタントなどを請け負う。 国家資格キャリアコンサルタント/米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。
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