ついに来ましたね、「遺影」を撮るときが……!
再び巣鴨の地蔵通り商店街にやってきた藤谷さんとめんまさん。その目的はなんと、遺影を撮影するため。全国でも珍しい「シニア向け写真館」のえがお写真館にお邪魔します。
果たして、バンギャルが遺影を撮ったらどうなるのでしょうか……。
ついに来ましたね、「遺影」を撮るときが……!
我々はよく「バンドマンとのツーショットチェキを遺影にしてほしい」みたいな話をしていますが、実際遺影に使う写真ってどんなものがいいんでしょうね? 最近父が亡くなったんですけど、遺影用の写真選びはかなり大変でした。今更ですが、生前にいい写真を用意しておけばよかったと思います。
たしかに、私の亡くなった祖母の遺影もかなり昔の写真を使っていたんですよね。
実際経験してわかったことですが、遺影ってお葬式が終わった後も飾っておくものなんですよね。地域や家庭によると思いますが、四十九日や納骨まではお骨の隣に飾る場合もあるそうで。しかもサイズがデカい!
できれば自分のときも納得するものを使ってほしいですよね。そういう意味では事前に撮影しておくのもアリかも。
ちなみに今回、連載テーマに合わせて無難な普段着とは別にゴシックロリータ風の黒いブラウスも持ってきたのですが。
私もバンドTシャツを持ってきました。あわよくば着たいですが、場違いにならないかな…?
まあまあ、物は試しということで、行ってみましょうか。
ようこそ「えがお写真館」へ!
きれいなスタジオですね。メイク道具もたくさんある~! 芸能人みたいな気分になりそう!
えがお写真館では、ただ写真を撮るだけではなく、お客様のメイク、ヘアスタイリングを担当する者とカメラマンが皆様に対応します。いくつか撮影いただき、最終的にお気に入りのものを、データや額装された状態でお持ち帰りできる仕組みです。
(編集部注:プランによって持ち帰りできる数や形態が異なります)
このドレッサーもお客様から「プロにメイクしてもらうなんて、結婚式以来かも!」と好評です。さっそくメイクしてみますか?
はい、よろしくおねがいします。シニア向けのメイクは、若い人とはまた違うポイントがあるのでしょうか?
やはり、くま、しみ、たるみ、しわなどのお悩みが多いようです。コスメもそういった悩みに対応したアイテムを揃えています。若い頃とはどうしてもお肌のトーンが違ってくるので、無理に肌を明るくするのではなく、今のお肌に馴染むものを使用しています。
私は現在41歳なんですが、たしかに最近、クマやたるみが気になりはじめています。
そういうときはツヤで立体感を出したり、チークの入れ方で対処しています。ほかには、撮影用にアイテープでたるみを引き上げることもあります。
こうやって鏡の前でメイクしてもらうのも緊張しますね。
そういうお客さまは多いですよ。緊張をといていただけるように色々お話をしたりします。
ちなみに、今日は無難な服の他に、こういうものを持ってきたのですが……。(スッとゴシックロリータ風のブラウスを取り出す)これを着用して遺影にするのは可能でしょうか?
もちろん大丈夫ですよ。
いいんですか!
黒い服って「縁起が悪い」からNGかもと思っていました。
服に規定はないですね。ノースリーブやニットのような季節感が強すぎるものは避けたほうがよいかもしれません。
じゃあバンドTシャツを着たりバンドタオルを持っていてもいいんですか?
実際にそうした格好で撮られるお客様もいらっしゃいますよ。男性の方が多いですね。楽器を持って撮影される方もいらっしゃいます。内緒で撮影して、後からご家族にびっくりされないよう、事前に話しておくとより良いですね。
へえ~!
ちなみになんですが、バンギャルの間でよく「バンドマンとのチェキを遺影にしてほしい」なんて話すんですが、それって遺影にできるんでしょうか?
技術的には可能です。デジタルカメラやスマホカメラが普及する以前は、免許証の写真やL版の集合写真など、紙焼きされた写真を引き伸ばして遺影にすることはよくありました。
むしろ昔はチェキのような小さな写真を遺影にするのが普通だったってことですね。
今回我々は撮影するので、チェキの遺影ではなくなりますが。
さっそく写真を撮影してみましょう。少し緊張されてますね。ポーズをもう少しとってみてください。
が、がんばります!
歯をもう少し見せてみてください!
お、おう。私ちょっと歯並びコンプレックスなんで……。
全然いいじゃないですか。
いや、これは自分自身の問題なんで……。
そこをなんとか!
ほかのお客さんたちもこういうときは緊張されるんでしょうか?
そうですね。撮影しているうちに慣れていく方が多いですが、緊張をほぐすのもスタッフの仕事の一つです。そもそも、年齢を重ねてから写真館にいくという文化は今までになかったので、緊張されない方の方が珍しいですよ。
確かに、写真といえば子供のころ七五三で撮りに行く、くらいしかタイミングがないと思ってました。
今まで、写真館というのは、子どもの成人式までしか利用いただけなかったんです。そこに着目して、このシニア世代向けの写真館を立ち上げました。最初は需要がないところに宣伝にいく状態で、なかなかお客様には来ていただけなかったですね。それでも、興味を持ってくださったお客様がいて、最初は口コミで広まっていきました。
確かに、メイクして写真撮影してもらえるのって楽しいですもんね。私も母を連れて行きたい。
藤谷さんの撮影終わりました!
今回、比較として着替えとメイク前の写真も特別に撮ってもらいましたが……。
わ! すごい! プロの仕上がりですね〜。ちょっとスマホのカメラでも撮っていいですか?
お友達同士でグループのお客さんの場合、今みたいに、皆さんで盛り上がってスマートフォンで写真を撮りあったりしていますよ。
かわいい~。
お客さまのお話を伺っていると、「子育てが終わって、学生時代の友だちと交流が復活してここに来た」というグループの方も多いようです。昔の友だちと会うと年齢なんて忘れちゃうじゃないですか。おしゃべりの話題も女子高生と変わらないというか、イメージの中の高齢者とは全然違うんです。
「シニア向け」だからといって、過剰にお年寄り扱いするのも違うってことですね。
だから「お若いですね」って言われるのも抵抗があると思うんです。
自分でも「若いですね」って言われると「大人げないのかな」って思っちゃいますもん。
「老いる」ことは悪いことではないのですから。メイクや撮影をするときは「その人らしさ」を大事にするようにしています。
自分らしさを大事に……ということで、もっとバンギャルらしいスタイリングもやってみたいです。
でもどうなんでしょうか、遺影にV系メイクは。
周りの人がみたらびっくりするほど別人になってしまうメイクは避けた方がいいと思いますが、ご本人の魅力を引き出すものであれば、目の周りのシャドウが少し強くてもOKですよ。
では早速お願いします!
プロの技に圧倒されますね!
ちょっとやりすぎた感がありますね。ちなみにマニキュア(ANNA SUI)もお借りしました。
完全にアー写(バンドマンの宣材写真)じゃないですか!私はどっちかというとこっちの感じの藤谷さんと接してきたので、「らしさ」を感じます。お葬式でこれがあったら大泣きしながらも、違和感ないお別れができそうです。
これ以上ない褒め言葉!
それにしてもさっきのナチュラルフォーマルな感じから、本格的な「The † V系」っぽいメイクまでご対応されるプロの技には本当に頭が下がりますね。メイクさん、実はバンギャルのご経験はないですよね?
V系は未経験です(笑)。でもよほど特殊なものではない限りご要望にはお答えできますよ!
次はめんまさんの撮影の番ですよ。
いいですね! マッチングアプリで使われていそうな写真。
顔を公開できなくて恐縮なんですが、健康的に撮っていただいたので遺影の前にマッチングアプリのプロフ画像にしようと思います。死ぬ時用の写真を撮って、恋愛方面の活力がみなぎってくるとは思いませんでした。
貴重な体験ができましたね。これでいつでも万が一現世とおさらばしても安心できます。
縁起でもないことを……。
そもそも「遺影」というのは、亡くなってから「遺影」になるわけで、それまでは「ポートレイト」なんですよね。
たしかにそうですね。
写真館にいらっしゃる方も、色々な方がいます。先程話したように、友人同士でいらっしゃる方もいますし、ご夫婦でいらっしゃる方、お子さんにプレゼントされて……という方もいます。男性の場合、最初は「笑顔なんてできねえよ!」と嫌がってたのに最終的に楽しんでくださって、撮影が終わってもメイクを落とさずに帰る方もいるんです。
年配の男性はまだメイクに抵抗感がある人も多そうなのに、素敵ですね。
ほかには、悲しいことですが配偶者に先立たれたことがきっかけで、子どもたちに自分の写真を残しておこうという方もいらっしゃいます。
いろんな理由があるんですね。
では、どのカットをお持ち帰りいただきますか?
悩ましいですねえ…。
選べない…! スタジオに飾ってあるサンプルも、どれも素敵ですよね。
この飾ってある写真、実は僕の祖母なんです。
へえ~! シニアモデルさんだと思ってました!
この写真館を始めるときに、撮らせてもらったんです。その2年後くらいに亡くなってしまって……。でも、すごく笑顔の写真でお葬式をあげることができて、親族にも好評でした。祭壇に飾っている写真が笑顔だと、遺された人は「この人は幸せな人生送ったんだろうな」って感じると思うんです。
このバキバキのヴィジュアル系写真だと「藤谷さんは人生を楽しくエンジョイできたんだろうな」って思ってもらえそうですね。
遺影、そっちで行くんですか?
できれはこっちで逝きたいです! イエーイ!
奈良県出身の漫画家・イラストレーター。小学生の頃V系バンドに目覚め、以後約20年をバンギャルとして過ごす。主な著書はバンギャル人生をネタにしたコミックエッセイ『バンギャルちゃんの日常①〜④』(KADOKAWA)。趣味はスーパー銭湯めぐりとプロレス鑑賞。
1981年生まれ。自衛官、書店員、DTPデザイナーなどの職を節操なく転々として、フリーランスのライターに。趣味と実益を兼ねたサブカルチャーの領域での仕事が多い。共著に「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。
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