第一回でも「きよしのズンドコリハビリ」が話題になりましたが、人が何かを成し遂げる際に、「推しの力」の影響も大きいのではないかと考えてしまうんです。
「趣味で繋がる老後」ってアリ? バンギャル同士が老後に集まって暮らす「バンギャル老人ホーム」の可能性を探っていく連載第7回。今回は、医療・介護の分野で働くバンギャル、 ギャ男座談会の後編をお届けします。
前回は、現場で働いている人から見える「老い」や「死」についての問題や、介護、医療業 界の課題などハードな内容のお話をしていただきました。 後編はもっと具体的に「バンギャル老人ホーム」について考えよう、ということで具体的なアイデアを聞いてみたいと思います。
第一回でも「きよしのズンドコリハビリ」が話題になりましたが、人が何かを成し遂げる際に、「推しの力」の影響も大きいのではないかと考えてしまうんです。
「大好きなバンドのライブに行きたいから、勉強して東京の大学に行く」的な。これは病院の手術だったり、老人ホームでのリハビリなどでも例外ではないのでは。
ウチにも演歌歌手の山内恵介さんの大ファンの患者さんがいて、ベッドにはCDやサイン、バスタオルやグッズが並んでいますね。仕事はもちろん、趣味や追っかけだったり、「戻りたい場所」がある人は、目に見えて回復が早いんです。「コンサートに行きたい」だとか「また社交ダンスがやりたい」とか、モチベーションがあるからメンタルも強いし、リハビリも頑張ってくれる。
脳梗塞で倒れた方がいらして、自分ひとりでトイレにも行けなかったのに、「また野球観戦に行きたい」という気持ちを糧に、リハビリを重ねていって要介護4から2に戻ったケースがあります。リハビリのカードも応援している球団っぽいデザインにするとか、施設の方でも後押しできるようにしました。
そうやって施設側でも応援してくれると嬉しいかも。
ウチは音楽系は少ないけれど、囲碁や庭いじり、ゴルフみたいな趣味を持っている人は多いね。あと株かな、株やっている人は結構いるなあ。ほかには趣味というか、毎週お茶会をやっていて、そこでは入居者やスタッフを肴におしゃべりをして楽しんでいるね。
国的にも、高齢化で医療費がどんどん膨らんできているから、自立度を上げていく介護が求められているように感じます。そこで、趣味などの「生きがい」に対してアプローチしていったほうが、私たちスタッフも助かるし本人の為にもなるように思います。
この連載は「趣味に特化した老人ホーム」の可能性を探るテーマなんですけど、現場の方々的には、具体的にどんなサービスがあったらいいと考えますか?
「ホーム長がYOSHIKI」とかいいんじゃないですか。シンボルというか、名誉職的に。
待って? いきなりそういう方向に!?
いいじゃないですか。
名物社長のグッズを売る会社とかあるじゃないですか。それみたいにYOSHIKI施設長のグッズ展開を……。でも、そんな施設があったら僕は入りたいな(笑)。
運命共同体(※X JAPANのファンをこう呼ぶことも)の方は入るでしょうね。
本当に運命を共同する施設に!
たとえば、年に1回でも訪問してくれたら嬉しいでしょうね。数年に1回でも良いからライブを……。
クリスタルピアノ(※YOSHIKIのトレードマーク的な透明なグランドピアノ)を置いて、一般のお客さんも入場可能にして……。
犬と暮らせる施設の取材をした時、近所の小学生が犬と戯れに来るので地域交流が発生するという話を聞きました。それのバンギャル版が!?
YOSHIKIさんはヘルニアを抱えていたりするので、入居者の気持ちもわかってくれると思うんですよ。それこそ同じメーカーのギプスも使えたりしたら、私は嬉しいかもしれません。
そうそう、オリジナルソングのある施設もあるんですよ。入居者さんが集まってレコーディングしたりするそうです。そういう試みがどんどん増えていったら、ミュージシャンの方の仕事も増えるし、ウィンウィンなんじゃないでしょうか。
函館のホームにGLAYが楽曲提供とか……。
ゴールデンボンバーはそういう企画得意そう!
鬼龍院さんが曲を作って、他のメンバーが全国のホームをまわってレクレーションをするんですよ。
そしてそれをNHKで放送して、また紅白にチャレンジしてほしいですね。
今もDaccoがエアロビライブをやっていたり、振り付けにスクワットのあるバンドもあるんですよね。僕ら世代が高齢者になる頃は、そうしたバンドが介護予防体操をつくって広がっていくのかもしれないですね。
夢がありますね。病院にも老人ホームにも、レクレーション、リハビリの一環として運動の時間が必ずあるんです。ウチのリハビリ室もそうなんですけど、音楽が流れていると雰囲気もいいし、患者さんたちのやる気も変わってくるんです。無気力な患者さんでも、その方の若い頃の流行歌をYouTubeで検索して流してみたら、口ずさんだり笑顔になったり。音楽の力はやっぱりすごいと思います。
私もそう思います、認知症がすごく重くて会話もままならない入居者の方がいるんですけど、「月が出た出たっ~♪」って歌ったら、合いの手は絶対入れてくれるんです。
コールアンドレスポンス!
なぜか「よいよい」だけは、やってくれるんです。昔の曲じゃなくても、自立度が高い方(介護の必要性が少ない方)を対象に、ちょっと激しめの運動をするレクレーションで、DA PUMPの『U.S.A』が流れたことがありましたね。担当者の趣味で。施設内がざわつきました(笑)。
私、仮に将来要介護度5とかになってもLUNA SEAの『WISH』のイントロが流れたら、きっとジャンプするんでしょうね。
足元には気をつけないと……。
ほかにも、デイケアだとカラオケルームが結構あるんですよ。
では、バンギャル向けにライブハウスの柵があるカラオケルームも実現可能では?
場所から記憶が刺激されるってありそうですもんね!
そうですね、ヘドバンはあまり推奨できないけど……。
はぁい。
大きなモニターが必要かもですね。どうしても視力が落ちてきたり、耳も遠くなってるので。
そこはVRを使用したりして!
オタク仲間の知り合いがVR関連の仕事をしているんですが、実際に寝たきりのお年寄りに、過去に行った場所のVRを体験してもらう試みは行われているそうです。「もう一度ここに行けるとは思わなかった!」と好評だとかで。
じゃあVR最前も夢じゃない!
VRチケ発で瞬発力を鍛えましょう!
私、80歳とかになっても、朝 10 時にファミポート見たら、元気よく立ち上がる自信がありますね。
でも、趣味って熱心な人たちが集まると人間関係が面倒になっちゃうこともあるじゃないですか。
ウッ。
勤務先で、囲碁で熱が入りすぎて入居者さん同士がケンカになってしまったことがあったんですよね。
う~ん。
年齢にかかわらず、趣味のコミュニティはマウントの取り合いや価値観の違いで揉めることはありますからねぇ……。
ウチでもあったなあ。そういう意味では、あんまりひとつの趣味に特化しないほうがいいのかもしれないね。
先日取材した趣味特化型老人ホームは「犬」がテーマで、細分化され過ぎない、分母の広さがいいなと思いました。
入居者さんを見ていると、最初は仲が良くても認知症の進み具合や体調の問題で、疎遠になっていくケースもあるんです。
そこは盲点でした……!
そういう意味では、つながる仲間は複数いたほうが良いし、つながる趣味もひとつじゃない方がいいのかも。例えば僕は、昔は失礼ながら「EXILEなんてどこがいいんだろう」なんて思っていたんですが、『HiGH&LOW』シリーズにハマってからLDHのことが大好きになってしまって……。
それは最近めちゃくちゃ聞く話ですね!
そうそう(笑)、他にもソシャゲだったりアイドルだったり、いろんな趣味を「かけもち」の人も多いと思うんです。
「かけもち」オタクがたくさんいて、様々なクラスタ同士がゆるくつながった、Twitterのタイムラインみたいな施設がいいのでしょうか。
それこそ将来、身体が動かなくなってもVRで繋がれるSNSみたいなものが出来たとして、そこで自由に行き来できたらいいのかなぁ。話が壮大になってきたぞ……?
どうしても大喜利感が出てきてしまう。
それはそれで面白いから仕方ない!
深い話から大喜利まで、色々な話題が出ましたね。
個人的には、延命治療の話が衝撃でした。今度、親とも話し合おうと思います。しかし、仲間同士で老人ホームを作っても、老いのスピードは個人差があるとなると、色々と難しそうですね〜。今後の連載の方向性が……!
思ったんですけど、「場所を作る」のではなくて、元気なうちに個人でできる、具体的な老いへの準備を聞いてみるのはどうでしょう?
それはたしかに一理あるかも……。
というわけで次回から、バンギャルの老後について、その道のプロや先輩方に、具体的なヒントを伺う連載がスタートします。
新連載「ヘドバンしながら老後を考える」をお楽しみに!!!
「ヘドバンは体に悪いからダメ」って話じゃありませんでしたっけ?
タイトルはあくまで比喩です!
奈良県出身の漫画家・イラストレーター。小学生の頃V系バンドに目覚め、以後約20年をバンギャルとして過ごす。主な著書はバンギャル人生をネタにしたコミックエッセイ『バンギャルちゃんの日常①〜④』(KADOKAWA)。趣味はスーパー銭湯めぐりとプロレス鑑賞。
1981年生まれ。自衛官、書店員、DTPデザイナーなどの職を節操なく転々として、フリーランスのライターに。趣味と実益を兼ねたサブカルチャーの領域での仕事が多い。共著に「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。
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