今回は、医療・介護の分野で働くバンギャル、ギャ男さんにお越しいただきました。
Aさんは旧知の知り合いだったんですが、この連載を見てLINEがきたんです。今は老人ホームの運営会社でマネジメントのお仕事をされているとのことで。
「趣味で繋がる老後」ってアリ? バンギャル(ヴィジュアル系バンドのファン)のライタ ー・藤谷千明と、おなじくバンギャル漫画家・蟹めんまさん、そして「tayorini」編集部の 大田さんと共に、「バンギャル老人ホーム」の可能性を探っていく連載第6回。
今回は、医 療・介護の分野で働くバンギャル、ギャ男のみなさんに集まっていただきました。
日々、高齢者とケアの仕事に向き合うバンギャル、ギャ男たちは自分の老後についてどのように考えているのでしょうか?また、彼らなら「バンギャル老人ホーム」の具体的なプランも 考えてくれるかも! ということで 3 名の方を招いた座談会を前後編でお届けします。
今回は、医療・介護の分野で働くバンギャル、ギャ男さんにお越しいただきました。
Aさんは旧知の知り合いだったんですが、この連載を見てLINEがきたんです。今は老人ホームの運営会社でマネジメントのお仕事をされているとのことで。
そうそう、「今はこっちが専門だよ!」と(笑)。
なぜ介護業界に?
マネジメント経験を活かせたらいいなと思ったのと、地域に根差した仕事がしたかったんですよね。それで色々と仕事を探して、今の会社に入りました。
そしてYさんとJさんは私のバンギャル仲間です。Yさんとはmixiの時代からの付き合いですね。ある日、介護系のツイートが目に入るようになって、「転職したんですか?」とDMしました(笑)。以前は別のお仕事でしたよね、転職の理由は?
以前はサラリーマンをしていたんですが、その会社の月給だと、好きなバンドのライブで物販ガチャも気軽に回せないのが嫌だったんですよ(笑)。
物販ガチャ、1回500円くらいしますからね……!
そうそう(笑)。それにやっぱり30代に入って、 生活に漠然の不安があって、看護学校に通って資格をとったんです。資格職なので長く働けますし、やっぱり時間をとりやすいのでライブにも通いやすいんですよね。
医療・介護業界で働いているからこそ、自分の老後についての考えはありますか?
そうだなあ、スタッフの言うことをちゃんと聞く入居者になりたいなぁ(苦笑)。
そうでない人も多いと?
なんでも命令形だったり、態度がよくない人も少なからず……。
脳の疾患で性格がガラッと変わってしまうケースもあるので、仕方のない部分もありますが……。
もちろん、どんな人にでも平等に接することが前提ですが、僕らスタッフも人間なので、すごく意地悪な人やワガママな人の看護をしていると、「自分はこうはなりたくないな……」と思うこともあります。
ウチの施設に、もう90歳を越えて、認知症も進んで会話も難しいんですが、よくスタッフに「ありがとう」と言ってくれるおばあちゃんがいるんです。そういう人に自分もなりたいなって思います。
ちなみに、金銭面についてはどうでしょう?
そうですね~~。やっぱり現実問題、介護保険があるにしても、お金はかかりますね。なのでライブに行きつつ、たまに我慢して(笑)貯金はしています。
私はまだ20代なので、あまり老後のことは考えずに最低限の貯金しかしてないですね。最近バンドのチェキに1日でXXXXX円使っちゃって……。
気持ちはわかるけど、それはちょっと落ち着いた方がいいかも~~?
介護施設といってもピンキリだけど、一般的な老人ホームだって入居金だけでも数千万円はかかるからね。
ウッ……。
正直な話、僕はこの仕事についてから、年をとるのが怖くなってしまったところはあります。特に金銭面……。
今と自分たちの時代の老後はきっと違うものになっていると思うんですが、それが良い未来であるとは限らないですからね。とくにお金に関しては……。はぁ。
でも、中にはお金持ちじゃなくても、良い老後を歩んでいる方もいるので、そういう人には勇気づけられます。
それはどんな人ですか?
やっぱり友人や家族がいるかは、かなり大きいような気がします。
趣味を通じての友人でもアリですかね?
そういう人もいますよ!
よくメディアなどでも議論になるテーマですが、最終的に自分の家と介護施設、老後を暮らすならどちらがよいと考えますか?
そうですね、その時の自分の状態にもよりますけど、私は断然施設ですね。施設のほうが専門のスタッフがいて、バックアップ体制が整ってると思うので、なにかあったときに安心かなと。家族よりも、お金を払っているという関係性の方が気がラクです。
僕も施設ですね。この業界で働く前は家がいいと思っていたけれど、それがいかに安易な考えだったか……。
安易?
やっぱり家族に迷惑をかけたくないと考えてしまいますね。それに、家だと介護保険の点数を使うのも手間がかかるので、特定施設(※)の方がやれることが多いと思います。持ち家だと相続税の問題もあるし……。
介護付き有料老人ホームなど、介護施設の中でも都道府県の指定(認可)を受けた施設。介護保険の自己負担額が定額になっている。一方、在宅介護は介護サービスを受けた分で介護保険の自己負担額が決まってくる。
だから、元気なうちに施設に住民票を移しておいて、家は子供に譲るなり売るなりした方がいいのかな。立つ鳥後を濁さずじゃないけど。
この仕事をしていると、自分で色々な判断ができるうちに、家族と話し合うことが大事だなと感じます。とくにお金まわりの話は、認知症が進んでしまうと判断が難しいですし。
そこを相談しなかったばかりに、家族間で揉めてしまう……という光景は病院でもよく見かけます。
私事ですが、今まさに祖父が危篤状態で入院してまして、その問題が発生しています。銀行関係は本人が窓口に行けなくなると口座凍結に近い状態になるんです。家族が代理でできることにも限界があって。
その件もあって、親戚同士で今後のためにみんな「終活ノート(※)」を作ろうって話はしています。
意志疎通ができなくなったときに、または死後にどのようにしてほしいか周囲の人に意思を伝えるためのノート。主に財産のことや、医療措置、葬祭について書き残しておく。
加えて、「延命治療」についても話し合ってもらえると、こちらとしては助かります。
「延命治療」って、「人工呼吸器をつけるか否か」みたいな話ですか?
他にも色々あります。輸血から心臓マッサージ、電気ショック、血圧が下がったときに昇圧剤 を使うかどうか……。
あとは胃ろう(※)ね。胃ろうを延命治療だととらえていない人が多いんだけど……。
口から食事を摂ることが困難な人が、胃から直接栄養を取り込めるようになる医療措置。胃に穴をあけ、チューブやカテーテルで栄養を送り込む。
とにかく、何かあったときに、延命措置はどこまでやってほしいかを事前に決めておいてほしいんです。病院は家族が決めてくれてないと「全部やる」という決まりになっています。例えば心臓マッサージって、特に高齢者だと肋骨が折れてしまう事もあるのでアザだらけになってしまったり、人工呼吸器に繋げて何とかその場で延命出来たとしても、心肺機能が落ちている為にもう外す事が難しい場合もあります。
えっ。
そうなんですよ。それくらいの力でやらないと心臓をマッサージできないそうです。私も祖父が入院するまで知らなくて。衝撃でした・・・。
かなり苦痛を伴う治療でもあるので、そういう姿をみて「お父さんのこんな苦しそうな姿見たくなかった、もっと考えれば良かった」と悲しむ家族の姿を見る事もあります。
やるせないですね。知らないことが多すぎる……。
最近は、延命治療についての書籍もたくさん出ているし、tayorini でもたびたび記事 が出てます。
灯台下暗しだった。
「その時」が来たら、いきなり医師から「どうしますか?」と聞かれるので、難しいかもしれないけど、できる範囲で家族が元気なうちに知識を入れておくといいですよ。
認知症がすすむと、どんどんそういう決定も家族にゆだねられてしまい、本人の意志で はなく、家族の意思で生かされることになってしまう。「その状態は果たして幸せなのか?」なんて、考えちゃいますね。
めんまさんは、最近お祖父様の入院に付き添っているとのことで。
親族交代で病院に通ってます。病院のスタッフさんからすると、ご迷惑かもしれませんが、たまに病院に泊まったりもしてます。夜中は無意識に動いて酸素マスクをはずしてしまうので、付き添っている間は 5 分 おきにつけ直しに行くこともありました。まるでローディー(※)です。
アーティストがライブを行う際に、楽器の手配や管理、セッティング、メンテナンスなどを行う仕事。
ああ、ライブ中にシールドを直したりする的な作業を。
迷惑なんてことはまったくないです。むしろありがたいです。
ああ、よかった! ずっと「お邪魔かな」と気にかかっていたので。
夜勤の場合は1人のスタッフにつき20人以上の患者さんを看たりすることもあるんで。
ウチの夜勤も、そのくらいですね。スタッフが休憩をとっている時間帯はもっと多いことも……。
ひえええ。
胃ろうや酸素マスクを自分ではずしてしまう人は少なくないけれど、夜勤帯だとスタッフの人手が足りないこともあって、病院の場合はそこで「抑制」といって、ミトンをつけたり、体を帯で拘束 したりすることもあるんです。命を守るためなので仕方ないとはいえ、僕らも心苦しいです。
拘束問題はニュース番組で見たことあります。
病院は命を守るところなので、必要なことだと頭ではわかっているものの……。入院した入居者さんのお見舞いに行った時に、拘束されている姿を見るのは辛いです。ご家族の付き添いがあればスタッフも助かっているかもしれません。
実際助かっていると思うよ。
その言葉に救われました。
身体拘束の是非は、医療・介護の業界で議論になっていますね。身体拘束を取り上げ た報道番組があった次の日は Twitter にいる医療や介護業界のみなさんがこの話題で持ち切りでした。
病院と介護施設だと身体拘束の扱い方が大きく違っていて、介護施設での身体拘束は慎重な手続きを踏んで行われるんだよ。
以前取材した施設でも「拘束してません」というポスターが目立つ場所に貼られてあったのを覚えています。
同意書があった上で、「この時間にはやりました」「こういう対策をしています」という記録をとらないといけない。でも介護施設でも拘束OKにしたら、とんでもないことになってしまう気がする。だから厳しいルールがあるんだと思います。
そうだね。
たまに介護施設での痛ましい事件が報道されますけど、現場を経験してる人なら「加害者に問題がある」の一言では済ませられない部分もあると思います。例えば利用者さんが認知症やその他のやむを得ない病的要因で自分自身や他人に危害を加えてしまう場合、拘束なし、少人数のスタッフでどこまで利用者さんやスタッフの安全を守れるのか…環境にも少なからず事件の要因はあるのだろうと考えてしまいます。
ギリギリの人数で回しているところもたくさんありますし、労働環境と自分の良心とのせめぎあいの中で、ギリギリ利用者の命が守られている施設はあると思う。そこで良心の糸がプツンと切れてしまったときに何か起きてしまうのでは。人によって「耐性」は違うから……。
やっぱり最後は介護業界の人手不足問題に行きつくんですね。
どんどん話が重くなっ てしまいますが、ここは避けて通れませんね。めんまさんの付添いについての不安が解消されたのはよかったです。
後編へ続く!
奈良県出身の漫画家・イラストレーター。小学生の頃V系バンドに目覚め、以後約20年をバンギャルとして過ごす。主な著書はバンギャル人生をネタにしたコミックエッセイ『バンギャルちゃんの日常①〜④』(KADOKAWA)。趣味はスーパー銭湯めぐりとプロレス鑑賞。
1981年生まれ。自衛官、書店員、DTPデザイナーなどの職を節操なく転々として、フリーランスのライターに。趣味と実益を兼ねたサブカルチャーの領域での仕事が多い。共著に「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。
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