こんにちは~!

「趣味で繋がる老後」ってアリ? バンギャル(ヴィジュアル系バンドのファン)のライター・藤谷千明と、おなじくバンギャル漫画家・蟹めんまさん、そして「tayorini」編集部の大田さんと共に、「バンギャル老人ホーム」の可能性を探っていく連載第5回。
今回は、神奈川県秦野市にある「アプルール秦野」へお邪魔してきました。
こちらは「いつまでも愛犬と暮らせるホーム」をコンセプトにした、“犬”で入居者やスタッフがつながる老人ホームなんです! 専属のドッグトレーナーも常駐し、施設内の庭にあるドッグランは、地域の人たちも利用しているそうです。
入居者の方の愛犬はもちろん、施設内には現在3匹の「正社員犬」も生活しています。もともと保護された野良犬(保護犬)だったところ、訓練を受けてアプルール秦野に就職(!)したのです。彼らの仕事は入居者の方を癒やし、笑顔にすること。毎日午前と午後のレクリエーションに参加し、しっかり働いています。
2017年から犬を受け入れるようになったアプルール秦野。なぜ犬と暮らせる施設を作ろうと考えたのでしょうか? これは我々の理想である「V系」でつながるバンギャル老人ホームへのヒントがあるかもしれません! 施設長の加藤さんと、ドッグトレーナーの小野さんにお話を伺いました。

こんにちは~!

わんわんわん!


おお!受付に犬たちが!(※受付に仕切りがあって犬たちは勝手に飛び出さないようになっています)

ワンちゃんたち、もともと保護犬だったから、ちょっと警戒心が強くて、「はじめましての人」にはびっくりしちゃうの。

いえいえ、大丈夫です。(ワンちゃん……!)

ワンちゃんたちは、受付や事務室にいるんですね。

午前と午後のレクリエーションに参加するとき以外は、ここにいますね。

掃除も行き届いていて、「犬を飼っている家」独特の匂いもあまりしないんですね~。

毎日掃除機をかけて、空気清浄機もまわしています。

シニアさま(入居者)への衛生面には気をつかっています。では、さっそく午後のレクリエーションに行きましょう。

(ドッグトレーナーの小野さんにリードをひかれ、元気に出てくる)

おお……! ワンちゃんたちと入居者の方が、和やかにふれあっている!


皆さん、ワンちゃんが来ると笑顔になるんですよ。

ワンちゃん、握手会でのバンドマンやアイドル並みに入居者のみなさんをメロメロにしている…!


「セラピー犬」は、以前私が資格の勉強をしていた学校にもいたんです。でもひとつの施設にこんなにワンちゃんがいたり、入居者の方と愛犬が一緒に入れるという話は聞いたことがありませんでした。

なぜ、ワンちゃんに特化した老人ホームを作ろうと思ったんですか?

この施設は20年くらい続いているんです。これまでも、入居者の方と一緒に旅行に行ったり、スナックへ飲みに行ったりと、楽しいことをたくさんやってきました。そんな中、5年前くらいでしょうか、会社から「何かに特化した施設」「社会貢献」という課題が出たんです。
系列の横浜の施設は、ガーデニングに特化した場所になりました。じゃあうちはどうしよう? と考えたときに、私が動物好きなこともあったのと、周囲に「ペットと別れて暮らすなんて考えられない」という人たちがいました。そこで、ワンちゃんと暮らせる老人ホーム……ワンちゃん特化型のホームにしようと思い至ったんです。

なるほど。

でも、県や保健所の許可や手続きもたくさん必要で、準備に5年近くかかりました。

それは大変でしたね。ワンちゃんたちは、もともと保護犬だったとのことですが。

ボランティアの方々からワンちゃんたちの行く場所がないと伺っていました。県は今「殺処分ゼロ」をうたってますけど、それはボランティア団体が何十匹も保護して、数字の上でゼロになっているだけなんです。そこで、ワンちゃんたちの居場所を作る仕組みを作ろうと、老人ホームに保護犬たちを迎え入れました。

素敵な話ですね!


全国に3万軒あるという老人ホームで、ワンちゃんたちを受け入れることができたら、保護犬も少なくなると思うんです。そして、単なる看板犬ではなく、ワンちゃんたちにも仕事を与えたくて、ドッグランを作って、プロのドッグトレーナーを雇いました。

ドッグトレーナーの就職先に老人ホームというのは珍しいですね。

そうですね、以前は横浜にある家庭犬のしつけをする訓練施設にいたのですが、秦野に引っ越してきて、仕事先を探していたところ、こちらが見つかったんです。トレーナーの就職先って、犬の幼稚園や動物病院、訓練所と限られているので……。

仕事の選択肢が増えたというのは、いいことですね。

彼女は、入居者の方から「ワンちゃんのお姉さん」として親しまれています。最近は、ヘルパーさんの間でもワンちゃんの資格をとりたいという声があるんです。

おお~!

ワンちゃんと一緒に働くなら、ワンちゃんたちのことを知りたいじゃないですか。人間ってワクワクする気持ちが大事だと思うから。トレーナーの方も、入居者さまとコミュニケーションすることで刺激を受けますし。ヘルパーは今ものすごく人手不足です。だからこそ、楽しいことのある老人ホームがいいのかなと。ワンちゃん特化型にしてから、職員の定着率も上がりましたし、求人の応募数も増えました。そして、何より笑顔が増えたんです。

入居者さん同士もヘルパーさん同士も、みんな共通のワンちゃんという話題で盛り上がれるから、職場の雰囲気としても良くなるんですね。

V系に特化した施設で想像すると、ヘルパーさんも入居者もバンドの話で盛り上がれるような感じ。


テーマ特化型施設、いいことしかないじゃないですか~!入居者の方にも変化はあったのでしょうか。

たくさんありました。部屋から中々出てこない入居者さまも、ワンちゃんが来たら顔を見に来る。私たちの名前を覚えていない方も、ワンちゃんの名前は忘れないし、「この子たちにおやつを買ってあげたい」と、外出するようになったり、天気のいい日はワンちゃんとお散歩するようになった方もいます。これまではテレビをみているだけだった入居者さまの間でも、ワンちゃんを通じて会話が増えるようになりました。

推しの話は共通言語……!

もちろん課題も増えますが、その分会話やコミュニケーションも増えるし、私たちの仕事を、ワンちゃんたちが減らしてくれる面もあります。

というのは?

例えばショートステイでいらっしゃった方で、認知症で帰宅願望が強い方がいました。私達が「今日はここに泊まりましょうね」と言っても聞く耳を持ってくれません。でもワンちゃんがその方のそばにいきますよね。すると「あらどこから来たの?」と抱き上げて、可愛がっているうちに帰宅したい気持ちが収まっておられました。

さすが社員!

すごくいい仕事をしている!トレーナーさんがしつけているからこそできる仕事ぶりですね。

これまで彼女(小野さん)が育ててくれた「社員犬」は系列の施設にも何匹か行っているんです。他社さんでも賛同してくれるところもあって、これから増やしていけるかもしれません。

保護犬たちの行き場所も増えるということですね。

老人ホームは全国に三万軒以上あるので。私達はお金をたくさん出すことはできないけれど、少しでも社会貢献したいという気持ちはあります。

ちなみに、当初「犬と暮らす」施設になると決めたとき、入居者の方やご家族、周囲の反応はどんなものだったのでしょうか?

「いいことだと思うけど、大丈夫ですか?」という意見が多かったですね。ご本人が大丈夫でも、ご家族の中に犬が苦手な人がいたら難しいということもありました。ただ、嫌がってた方も、ワンちゃんたちが来た途端、可愛がるようになったりすることも。

ご近所の方は?

とくに反対はありませんでしたね。ワンちゃんを飼っているご家庭も多いので、ウチのドッグランは一般の人も利用できるようになっています。下校中の子どもたちも、「トイレ貸してください」と言いながらワンちゃんと遊びに来たり。

ああ~!子供の頃、通学路に犬がいて、お家の人に頼んで触らせてもらったりしていました。

ご近所との交流も盛んになったんですね。

それに、入居者さまの中には、「ワンちゃんがいるから」と、お子さんだけでなく、お孫さんまでよく顔を見せてくれるようになったと喜んでいる方もいます。

いいことしかないじゃないですか~!(※2回目)

社員犬だけでなく、愛犬と入居される方もいるんですか?

もちろんいらっしゃいます。昨年亡くなってしまった入居者の方は、ワンちゃんと一緒に暮らしていたんです。ご本人が亡くなってからも、ワンちゃんはウチでお世話をしていて、先日ワンちゃんも亡くなってしまったのですが、最後は皆でお別れ会をしました。


自分が亡くなっても、ペットのお世話をしてくれるのは安心ですね。

それに、今は「看取り犬」を育てようとしているんです。

「看取り犬」?

入居者さまを看取る時、スタッフも24時間つきっきりでそばにいるわけにもいきませんので、ワンちゃんが少しでもそばでじっと見守ることができるように育成しています。ワンちゃんが見守ってくれたら、不安が少ないと思うんです。

介護犬ではなく看取り犬、それは初耳です。

老人ホームは、かならず死がやってくる場所です。そこで、ワンちゃんが見守ってくれたら、最期まで幸せに旅立てると思うんです。

ワンちゃんが点滴にイタズラしちゃったり……なんてことはないのでしょうか?

今は訓練中ですね。でも、ワンちゃんは「待て」と言ったらいうことを聞いてくれるので。

かしこい!

そうなんです。ワンちゃんは賢いんですよ! いい子たちなんです。

泣きそう……。

私たちはヴィジュアル系バンドのファン=バンギャルなのですが、ワンちゃんだけでなく、なにか共通した趣味の人が集まる老人ホームって、現実味があると思いますか?

あると思いますよ。私たちの場合はワンちゃんだったけれど、バンドだったり、麻雀やパチンコで遊べたりとか、色々な趣味に特化した施設も面白いじゃないですか。それが好きな人で集まるということは、「幸せ」がひとつ増える施設になる。人生最後に楽しいことに囲まれた、素敵な場所になるんじゃないでしょうか。

私の祖母は、もう亡くなってしまったんですけど、一人暮らしをしていました。そして、ある日怪我をして寝たきりになってから施設に入ったんです。お話を聞いていると、もっと早い段階で施設に入ることを考えても良かったのかもしれません。

私は、元気なうちに自分で入る老人ホームを決めた方がいいと考えています。うちの施設は皆で温泉旅行にいったり、野球好きの方とは横浜までナイトゲームを見に行ったりして、いろんな楽しいことをたくさんやっています。
98歳で亡くなった入居者さまがいたのですが、その人とも色んなところに行きました。そうすると、亡くなる前にも「あのときは皆で海に行ったね、楽しかったね」とか、思い出話をしてくださって……。もし、最後の最後に寝たきりになった状態で入居されていたら、この場所でそんな思い出はつくれなかったでしょう。

老人ホームというと、どうしようもなくなってしまってから入る施設というイメージがあります。なので、入れる家族も罪悪感があったりするんです。老後を楽しみに行く場所みたいなイメージができたらいいですね。

うちのコンセプトは、「元気なうちに入って楽しむ」というものです。元気がなくなってから入ると「家に帰りたいのに帰れない」という状態になってしまいます。「第二の家」として楽しめる場所になってくれたらいいのですが、まだ世間のイメージはどうにもならない部分もありますよね。

介護は大変なお仕事だと思いますし、悲しい事件が報道されると、ちょっと暗いイメージが先行してしまいますし。

これからは、何か楽しいことをする施設が増えていって、そこをアピールしていきたいですね。老人ホームから仕事に出かける人がいてもいいし、趣味で外出する人が増えるのは素敵なことだと思うんです。


ちなみに、ご自身が入居するなら何歳くらいとお考えですか?

70代なかばくらいでしょうか? 私は今60手前で、仕事を引退しても、自分の趣味を色々楽しみたいし、ゆっくり家や身の回りのことを整理してから、75歳くらいで老人ホームに入りたいですね。そこで新しい友だちを作ったり、不安なときはヘルパーさんについてきてもらって外出したりして、人生を楽しみたいですね。

一刻も早く入りたくなってきた……。

それは早すぎるのでは!?
この取材をしてると施設によって個性がいろいろあるんだなと感じます。これまでは、家族のいる施設も年に数回しか足を運んでいなかったり、ニュースで報道される事件から暗いイメージを持ったりしていました。しかし、話を聞いていくと、どこも同じ施設はなくて、それぞれが想いをもってよりよい場所になるように、お仕事をされているのだなと。そして犬はめちゃくちゃかわいい。
奈良県出身の漫画家・イラストレーター。小学生の頃V系バンドに目覚め、以後約20年をバンギャルとして過ごす。主な著書はバンギャル人生をネタにしたコミックエッセイ『バンギャルちゃんの日常①〜④』(KADOKAWA)。趣味はスーパー銭湯めぐりとプロレス鑑賞。

1981年生まれ。自衛官、書店員、DTPデザイナーなどの職を節操なく転々として、フリーランスのライターに。趣味と実益を兼ねたサブカルチャーの領域での仕事が多い。共著に「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。
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