なんだか実家みたいで落ち着きますね。こういうところで、皆で夜中にライブ映像を観て暮らす老後もいいかもしれない……!
「趣味で繋がる老後」ってアリ? バンギャル(ヴィジュアル系バンドのファン)のライター・藤谷千明と、おなじくバンギャル漫画家・蟹めんまさん、そして「tayorini」編集部の大田さんと共に、「バンギャル老人ホーム」の可能性を探っていく連載第2回。
今回は「自分の手で理想の施設を作った」という方に会いに行きました。東京都・三鷹市にある医療対応型シェアハウス「ナースさくまの家」を切り盛りする、佐久間洋子さんです。
「ナースさくまの家」の中に入ると、階段昇降機や手すりなどのリフォームは施されているものの、落ち着いた雰囲気の一軒家。
今は3名の入居者さんがいます。リビングにあるベッドの横には男性アイドルグループのポスターも飾られていて、アイドルファンの方も入居されていることが伺えます。
ここは、様々な事情で自宅や病院、施設で暮らすことは難しいけれど、医療が必要な方々の駆け込み寺のような場所。施設ほどルールに厳しくなく、それぞれが好きな食事をとったり、夜更かしもOKなんだそう。きれいに整備された「施設」というよりも、まるで実家のような暖かい雰囲気の空間です。
なんだか実家みたいで落ち着きますね。こういうところで、皆で夜中にライブ映像を観て暮らす老後もいいかもしれない……!
おお、家庭菜園もある! 前回写真で見た老人ホームとは大きさも全然違いますね。
ここは「老人ホーム」じゃないのよ。
と、いいますと?
そもそも「介護」を提供する老人ホームだと思っていないし、届けを出してないんですよ。
法律上は「老人ホーム」とみなされても、あえて届けを出していないホーム。前回もそんな話を聞きましたね。
「老人ホーム」として届けを出すと、一人あたりのスペースの広さとか、色々と細かいルールに縛られちゃうのよ。
「メジャーデビューすると制約が増えるから、あえてインディーズでいるバンド」みたいだ……! それで問題はないんですか?
消防署の指導が入ったときは、クラウドファンディングで資金を集めたりしたわね。
それもなんだかインディーズバンドっぽい! どうしてこういう家を作ろうと考えたんですか?
身寄りが無かったり、家族が面倒を見ることが難しい人っているじゃないですか。そんな行き場のない人が病院で死ぬ以外の選択肢、もうひとつの家のような場所を作りたくて、このシェアハウスを始めたの。
なるほど。
昔から信念を持って「こんな家を作りたい!」と思っていたわけじゃなくて、30年以上病院で働いていて、人間関係だとか、いろんなことに疲れていたの。そんな時に他県で、ここみたいな小規模のホームホスピスを運営している人の話を知ってね。
民家を活用して、末期の患者さんを受け入れて自宅に近い環境で最期を看取る場所ですね。2004年頃から増えてきています。
そこで、「私も1人で何かできるんじゃないかな?」と、この一軒家を借りたんです。
ちょっと待ってください。「借りた」とおっしゃいましたが、こんなにガッツリとリフォームしてますが、ココは賃貸なんですか? 一軒家って2年ごとに契約をし直す必要がある「定期借家契約」のところが多いですし。
そうなの。家主さんからはリフォームの許可はもらってるし、定期借家だけど「できるだけ長く住んでほしい」と言われてます。ちなみに1ヶ月の家賃は17万円。
おお、わりと現実的な金額だ……。
この家を見た時に「自分たちで老人ホームを作るには、まずは都内に持ち家が必要なのか。道のりは遠いな」と思ってしまったので、「賃貸でもできる」という話は、かなり心強いですね。
最初にかかった費用は、敷金礼金と、階段昇降機の費用が130万円くらいかな? 合計200万円はかかったのかな。あとはウチの親が何故か布団をたくさん持っていたので、それはタダで(笑)。
初期費用はそのくらいなんですね。ちなみに、こんな我々ド素人が自分で施設を作ること自体は、現実味ってありますか?
あるんじゃない?
やったぜ!(ガッツポーズ)
でもね、「趣味が同じ」といっても人間関係が大変になってくると思うのよ。定年して趣味を始めるおじいちゃんも多いけれど、これまで人の上にたっていたから、やたらと「教えたがり」の人も多いし。自分より上手な人がいたら、機嫌が悪くなる人も出てくる。
趣味に愛情やプライドを持っているからこそ、人間関係がうまくいかないケースもありますよね。
そうそう。例えば、あるアイドルが活動休止を発表した時ね。それぞれの思い入れは違うじゃないですか。そのアイドルのファンの入居者さんの前で、同じくファンのヘルパーさんが「あら、メンバーもそろそろ結婚かしらね?」とか言っちゃうんですよ。そうなると「やめてよ!何でそんなこと言うの?!」って泣いちゃったり。
入居者同士でも起こりうる話! 確かに趣味が同じでも、人によって愛で方の違いというか、スタンスの違いがありますもんね。アーティストのファン同士の場合、活動休止とか結婚とかが発表された瞬間に宗派違いによる受け取り方の違いが如実に出てギスギスしてしまう。みんな好きなものは同じなはずなのに・・・。
そうそう。好きなものが同じだからこそ相容れないこともあるんですよ。
こういう不毛な小競り合いは中学で卒業したかったし、できると思ってたけど、大人になってもモメっぱなしでした。老後もきっと変わらないんだろうな・・・。一生思春期なんだろうか・・・・・・。
ちなみに、こういう施設を作りたいときに、必要な資格などはあるのですか?
絶対必要な資格はないけれど、介護保険の知識や、高齢者向けのサービスの相談窓口を把握しているのは大事なんじゃないかしら。まったく知識がないのは流石によくないけれど、最初から完璧な知識がなくてもいいと思う。
それに、同じ趣味で集まっても、相手のことは、全部理解できるわけじゃない。違う個性が出るのが面白いんじゃない? 資格ではなくて、「人間力」が必要になってくるのかな。
なるほど! 今日はありがとうございました。私、漠然とした不安から介護職員初任者研修をとったんですが、資格をとるだけでは拭えなかった不安が、今日のお話を聞いて少し解消されました!
あら、あなた資格持っているの! ここで働かない?
おおおお?
リクルートだ!
自分の力で「誰かにとってのもうひとつの家」を作った佐久間さんは、とてもバイタリティあふれる方でした。シェアハウス運営は大変なことも多い中、その話をとても楽しそうにお話してくださいました。賃貸の一軒家からのスタートというのは、私たちにとっても「手の届く範囲」だなと、勇気をもらえました。
余談ですが、リクルートされためんまさんですが「自宅から遠すぎて通えない」という理由でお断りしていました(笑)。
次回からも、自分自身の手で老後の空間を作っている方々にお話を聞いていこうと思います。
奈良県出身の漫画家・イラストレーター。小学生の頃V系バンドに目覚め、以後約20年をバンギャルとして過ごす。主な著書はバンギャル人生をネタにしたコミックエッセイ『バンギャルちゃんの日常①〜④』(KADOKAWA)。趣味はスーパー銭湯めぐりとプロレス鑑賞。
1981年生まれ。自衛官、書店員、DTPデザイナーなどの職を節操なく転々として、フリーランスのライターに。趣味と実益を兼ねたサブカルチャーの領域での仕事が多い。共著に「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。
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