老人ホーム選びって、お金もかかるし住環境も変わりますから、なかなか大きな決断です。それでも「ここじゃなかった…」と転居される方もいらっしゃるんですよね。
入居してから「こんなはずではなかった…」と思わないために確認しておきたいポイントを、入居相談業務を経験してきた「LIFULL 介護」編集長の小菅 秀樹が解説します。
老人ホーム選びって、お金もかかるし住環境も変わりますから、なかなか大きな決断です。それでも「ここじゃなかった…」と転居される方もいらっしゃるんですよね。
ほとんどの方は入居されて問題なく過ごされていますが、一部の方はイメージと違ったという理由で住み替える方もいらっしゃいます。
入ってみないと分からない部分があるのは仕方がないことだとは思います。ただ、探す側とすれば極力そういう後悔がないように探していきたいですよね。小菅さんが長年の入居相談業務の中で見てきた「入居後に後悔しがちなポイント」を教えてください。できれば回避する方法も。
実際に私が目にした例も含めて、7つの後悔ポイントをお伝えします。どれも事前に知っておけば後悔せずに済んだことばかりです。
入居してみたら、その老人ホームの平均介護度が重く、思っていたような入居者同士の交流がないという話は私も伺ったことがあります。
老人ホームを探す際に余裕を持って探せる人はあまりいません。せっぱ詰まってから探す人が多いのが実情です。例えば、入院してから退院するまでの2週間で老人ホームを探さないといけないこともあります。
そうなると、あまり細かいところを見る時間もなく、予算と場所が合致して受け入れもOKと言われたのでここでいいやと決めてしまう場合も出てきます。そういうケースでは、入居者全体の介護度をならした平均介護度を見落としてしまいがちなんです。
介護度が重い場合、認知症の症状が進行している、あるいは、認知症の有無に関わらず意思疎通がなかなか難しい方もいらっしゃいます。そうなると、食事やレクリエーションの時間になっても入居者同士の交流ができない場合が出てきます。老人ホームで友達ができたらいいなと思っていたのに、全く違っていたわけです。
では、見学に行ったら、必ずそこの平均介護度を聞いておきたいですね。
そうですね。重要事項説明書にも書いてあるのでチェックできます。平均介護度と自分の親の介護度に大きな乖離があった場合にはちょっと注意が必要ですね。
介護度によりフロアを分けているホームもあると聞きます。
フロア分けをしている老人ホームが最近は非常に多いですね。例えば、自立されている方は一番上のフロア、要介護だけれど軽い方は上から2番目のフロア、一番下のフロアは認知症の症状の重い方や医療行為の必要な方。そのようにフロア分けされている老人ホームのほうが住みやすいと思います。
「せっかく入居したのに、興味のあるレクやイベントが少なく、毎日に退屈してしまっている」という後悔もよく聞きます。いろいろなレクリエーションをやってはいるものの、どうしても興味が持てない。やっていることのレベル感も合わないから参加したくない。そうなると、交流の回数も減ってきて、部屋に閉じこもりがちになってしまいます。
そういった後悔を減らすためには、事前の確認が絶対に必要です。「入居予定者はこういうことが好きだから、入居してからも続けられますか?」と聞いた時に、老人ホーム側からどれだけの提案が来るかをチェックしましょう。毎月のレクリエーション表を見せながら、「こういうレクリエーションが楽しめるんじゃないですか?」という提案があるかどうかが大事です。
毎日退屈しないかどうかは、入居を焦っていると抜けがちな視点かもしれませんね。
急いで探している方は入居させることが一番のゴールだと思っているので、それ以外のことが見えにくくなってしまうんですよね。そこは一旦冷静に考えないといけないところです。
「豪華な設備や広すぎる居室は不要で、結局使わずに無駄になってしまった」と後悔している方もいます。入居する方の年収や預貯金に余裕があったので、グレードの高い老人ホームを選んだ場合に聞こえてくる後悔ですね。見学の時にはすごくいいと感じた共用設備も、実際に入居したら全く使わないということがあります。例えば、シアタールームやカラオケルーム、スポーツジム並みのマシンですね。それらは当然、毎月の費用に乗っかってくるわけです。
そういった設備を整えている老人ホームもありますね。
また、家賃と居室面積は大きく関係します。現在の主流は18平米のワンルームですが、20平米以上になってくると料金がグッと上がってくるんです。当然広いほうがゆったり生活できるんじゃないかということで選んだつもりが、意外と持ち物もそう多くなくて、部屋の広さを持て余してしまうこともあります。
このパターンの後悔は特段生活に困るわけではないですが、もうちょっとシンプルな老人ホームで月に3~5万円ぐらい安くなる所もあります。安くなった分で家族が面会の時に何か良いものを差し入れする方が良かったんじゃないかと考えてしまいます。
この後悔をどうやったら防げるのか。それは、入居する本人の希望を事前に確認しておくことです。正直、ご本人が老人ホームに入ることに前向きになるケースは少ないのですが、どうしても入らざるを得ない状況もあります。施設選びの前によくコミュニケーションをとり、入居後にしたいことを聞けていれば選び方は変わると思います。設備ではなく、別の部分で本人の要望が叶うことがあれば、そちらに焦点を当てた施設選びができていたはずです。
金額の観点でいうと、最初から価格帯を下げた施設を見学するという方法もありますよね。
価格帯は3万円から5万円ぐらいずつ差をつけて、3ヶ所ぐらい見ていただきたいですね。価格が安かったとしても必要最低限の設備が揃っていれば特に問題はないと思います。設備と費用のバランスは見てほしいなと思います。
同じ価格帯を見るのではなく、少し下げたものと上げたものを見てみて、費用と設備の豪華さのバランスがどれくらいなのかを比較していくのも、老人ホームの探し方の1つなんですね。
「もう少し安くても良かったのでは…」と、高額な入居金に後悔してしまう例もあります。入居金が高いか安いかは立地や建物、設備にどれだけの金額がかかったかに比例してきます。
仮に予算が1000万円あるとしたら、500万、800万、1000万の老人ホームを比較していただきたいですね。元々1000万円予算はあったものの、500万円で十分だったというケースもあります。入居してからもお金は使いますので、その分に残しておくという選択もできます。万が一、合わなかった場合の住み替えの予算として残しておくという考え方もお勧めです。
あえて予算よりも下の施設を選ぶというのは、確かにありですね。
私が過去に携わったケースですと、予算が1000万円の方で、1200万円、1500万円など少し上のグレードの所に決めた方もいらっしゃいます。
人員体制が手厚くて、施設周辺のお散歩などの個別対応も毎日のように実施しているなど、サービス面を気に入って1500万円のほうに決めたというケースです。いずれにせよ、前後数百万単位で分けて複数の施設を見るというのは、老人ホーム選びの基本です。
入居費用の決め方ですが、最低何年は入居することを踏まえると良いのでしょうか?
老人ホームに親が何年住むのかというのは、なかなか計算できませんよね。誰も答えは持っていません。そこで1つ指標になるのが平均寿命です。2020年の調査では、男性が81.64歳。女性が87.74歳です。親の年齢を照らし合わせてみましょう。
老人ホームの入居金には償却期間というものがあります。償却期間については長くなるので今回は詳しく触れませんが、入居したら5年は住むだろうということを想定して計算されているわけです。少なくとも5年分の費用が賄えるかどうかは確認していただきたいですね。
喜ばしいのですが、想定より長生きしたことで、払えなくなるケースもごく一部ですあります。その場合はもっと月額費用の安い老人ホームに住み替えないといけません。住み替えになるとまた引っ越すわけで、しかもいろんなグレードが落ちてしまうので、サービス面で不満が出てくる可能性があります。
そういったことを防ぐためにも、あらかじめ金額のシミュレーションをして、最低5年は住むことを目安に考えると後悔せずに済むと思います。
食事が親の口に合わなかったという後悔もよく聞きます。親の食事の好みは分かるようで分からないですよね。せっかく入居したのに好みに全く合わず、食事の時間すら楽しめないというようなケースもあります。
これを防ぐためには、ご家族が必ずそのホームで試食をしましょう。親の好みとは違うと思いますが、誰が食べても一定レベルの味と感じられるどうかは確認したほうがいいと思います。そこを確認せずに予算と場所だけで選んでしまうと、あまり食事に力を入れてなくて、冷めたご飯がいつも出てくるところも世の中にはあるわけです。
老人ホーム側から試食を提案してくれる所もあれば、こちらから言わないと対応してくれない所もあります。ぜひ聞いてみてください。
数少ない楽しみである食事が合わないとなってしまうと、家族も後悔しますし、本人はもっと辛い思いをしてしまいます。
健康のためにも、生活の楽しみのためにも食事は大事ですよね。
私もいろいろな老人ホームで試食をしてきましたが、ここは二度と食べたくないというところも正直ありました…。全国展開している老人ホームであっても気は抜けないので、試食は必ずしていただきたいと思います。
サ高住に早めの住み替えをしたものの、自宅と変わらずメリットを感じなかったという後悔ですね。サ高住はここ10年で劇的に増えました。マスコミもサ高住に注目していて、「早めに住み替えをしたほうがいい」という報道もあります。また、孤独死の報道を見ると、ご本人はどうしても不安になってしまって、「私も見守りがついているサ高住に行ったほうがいいんじゃないか」と思うようになります。
老人ホームに比べるとサ高住の金額は入居しやすい設定になっていますね。
入居金ではなく、あくまでも敷金なので数十万円から入居できるわけです。ただし、1日1回の安否確認はありますが、介護サービスを使うわけでもない場合、安否確認以外に住むメリットを感じられなかったというケースがあります。
一人暮らしで何かあったら不安だという場合は、見守りサービスを使えば自宅でも住み続けることができます。目的を明確にして住み替えをしないと、このような後悔をする方が出てきてしまいます。
一番まずいのは早めに住み替えて、元々住んでいた自宅を処分してしまった場合です。戻る家もないので、後悔しながら住み続けるか、住み替えないといけません。また余計なコストもかかってしまいますね。
どのような対策が有効ですか?
サ高住に入居した後にどんな生活がしたいのかを考えましょう。まず、要望をリストアップした方がいいと思います。それが叶うのであれば、サ高住への住み替えもありだと思いますが、そこに月10万円以上の家賃やサービス費用を払うべきかどうかは冷静に考えたほうがいいと思います。
利用したいのが見守りサービスだけだった場合ですが、今は見守りサービスにも多くの種類があります。1日1回電話をしてくれて、出なかったら緊急通報してくれるなど、まずはそういうサービスを使ってみて、それでも不安があれば住み替えるというように段階的に考えてもいいと思います。
毎日の食事を準備するのも面倒だし、洗濯やお風呂を沸かしたりすることも大変になってきて、何とかしたい。そういった要望をはっきりさせてから探すと良さそうですね。
例えば、食事の準備が面倒であれば、お弁当の宅配サービスを利用するのも一案です。行政が介護保険外サービスとして提供している場合もあります。まだ介護保険を使う状態ではない場合、保険外のサービスを使って自宅に住み続けることも選択肢の1つです
コロナを理由に面会ができなくなり、会えない状態が続くなら在宅でも良かったんじゃないか、自宅に戻りたいという後悔ですね。今はワクチン接種がかなり進んでいて、対面の面会を再開する施設も増えてきていますが、またいつ流行するかはわかりません。
老人ホームに入居できて安心して、毎週面会に行くからねと親に伝えたものの、コロナ禍で全く面会ができなくなってしまった方もいらっしゃいます。面会ができてもオンライン。オンラインといっても親が自分でタブレットを使えないので、事前にスタッフを予約して、15分という短時間しか面会ができないという老人ホームが全国的にあったわけです。そんな状態が続くなら在宅に戻ったほうがいいとおっしゃる方もいます。
コロナでは多くの方々が辛い思いをしましたね。
でも、本当に在宅介護に戻れるかというと難しいことも多いです。家族の労力も考えると、施設から在宅に戻るのはかなりの決断になります。これから老人ホームを探す方は、面会の状況がどうなっているかは確認すべきだと思います。オンラインなのか対面なのか。対面の場合はどんな条件があるか。施設によっていろいろな方針がありますから、確認してほしいなと思います。
コロナに限らず感染症で面会ができなくなった時にどういう手段があるのかは確認したほうがいいですね。
それと、施設から家族にどれくらい連絡があるかも関係してきますね。オンラインでもなかなか面会ができない状態であれば、施設から家族への連絡の内容や頻度が大事になってきます。それも含めてセットで確認しましょう。
入居後に後悔しないようにするためのチェックポイントをご紹介してきました。話を聞いてみると、どれも事前に対策できることばかりでした。いざという時に慌てないためにも家族で話し合っておきたいですね。
介護施設の入居相談員として首都圏を中心に300ヶ所以上の老人ホームを訪問。1500件以上の入居相談をサポートした経験をもつ。入居相談コールセンターの管理者を経て現職。「メディアの力で高齢期の常識を変える」を掲げ、介護コンテンツの制作、セミナー登壇。YouTubeやX(旧Twitter)で介護の情報発信を行う。
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