LIFULL介護編集長の小菅が、介護にまつわる様々な問題を取り上げる連載がスタート。第1回は、先日、全国で初の実態調査が行われニュースなどで話題になった「ヤングケアラー 」についてです。
2021年4月に公表された、厚生労働省・文部科学省によるヤングケアラーの実態調査報告が話題になった。今まで、自治体レベルでの調査はあったが、全国調査は初めてとなる。ヤングケアラーは「本来は大人が担うべき家事や世話を日常的に行うことで、権利が守られていない子ども」と位置付けられている。実は、まだ法的な定義はない。
調査は、無作為に抽出された全国の公立中学校、公立高校の1割を対象に行われ、対象校の中学2年生、高校2年生が回答を行った。報告によれば「世話をしている家族がいる」と回答したのは中学2年の5.7%、高校2年の4.1%という結果だった。
文部科学省によると、昨年度の中学2年生と高校2年生の数は全国で約208万人で、結果から推計すれば、今回の調査に回答した学年だけで、家族の世話をしている子どもは約10万人に上る。そして、今回の調査対象にならなかった学年も含めれば、これより多くの子どもが家族の世話をしていると考えられる。
介護というと、家族の中でおじいちゃんおばあちゃんの面倒を見ることを想起する方もいるかもしれないが、調査では「きょうだい」の回答が最も多く、中学2年生では約6割、高校2年生では約4割が該当していた。
平日に世話をした時間は、調査によれば1日平均で約4時間だという。日中は学校があるので、学校に行っていない時間のほとんどを家族の世話にあてていると考えられる。また、7時間以上と回答した学生も1割存在したとのことで、睡眠時間が削られているケースもあるだろう。7時間以上と回答した者の4人に1人は「健康状態が良くない」と回答しており、生活のハードさを物語っている。
世話をしていることで「やりたくてもできないこと」を複数回答で尋ねたところ中学生では「特にない」という回答が58%だった一方、「自分の時間が取れない」が20.1%、「宿題や勉強の時間が取れない」が16%、「睡眠が十分に取れない」と「友人と遊べない」がいずれも8.5%だった。
ヤングケアラー 特有の問題として、やはり同世代で悩みを共有しにくいところが挙げられる。全国調査ではその存在が浮かび上がるものの、クラス単位で考えれば、同じ境遇の仲間と自然に出逢うことは難しい。
また、ケア労働をすることが当たり前の環境で育ってきているため、自分ではSOSを上げるべきことなのか判断がつかない場合もある。実際、今回の調査でも「世話について相談した経験がない」と回答した生徒が中2、高2共に6割に上った。
深刻なのは子どもの進路や就職に影響する可能性がある点だ。この調査でも、世話をしているために「進路の変更を考えざるをえないか、進路を変更した」という生徒が4.1%いた。「自分が家を離れると家族の面倒をみる人がいない」と、介護を前提にして進学、就職先を選ぶ、あるいはそれ自体を諦めることもあるだろう。
同調査では、ヤングケアラー への対応について学校側にも調査を行っており、「ヤングケアラーを支援につなげることの困難さ」も見えてくる。学校側の回答によれば、疑わしい生徒を見つけても保護者とコンタクトが取れない、却ってコンタクトを拒否されるケースもあるという。また保護者自身が、子供がケア労働に従事することを「しつけ」、「家庭の方針」として、支援の必要性を認識していないこともあるそうだ。
本人が声を上げづらく、また家庭という場所に閉ざされ外部から見つかりにくいヤングケアラーだが、その存在が社会でより認知されれば、支援の手を受け取りやすい状況へと変わっていくかもしれない。家族のケア労働を担わざるを得ない状況になることは誰にでもあり、まずは一人ひとりがヤングケアラーの問題に関心を持つことが必要だろう。
また、各地ではヤングケアラー を支援する団体がある。ほんの一部だが紹介しよう。
NPO法人ぷるすあるはでは、ヤングケアラー当事者たちに向けた情報をわかりやすいイラストと言葉で綴り、ホームページに掲載している。当事者たちに寄り添う言葉や、相談先などを紹介している。
また、日本ケアラー連盟のサイトでは、各地のピアサポートグループを紹介している。
最後に、ヤングケアラー支援の取り組みに関連して、埼玉県が制定したケアラー支援条例についても触れたい。
埼玉県ケアラー支援条例は2020年3月に制定された、全国初の”介護をする人”を支援する条例だ。ケアラーを「高齢身体上又は精神上の障害又は疾病等により援助を必要とする親族、友人その他の身近な人に対して、無償で介護看護日常生活上の世話その他の援助を提供する者」と定義しており、うち十八歳未満の者をヤングケアラー と定義している。
全てのケアラーが個人として尊重され、健康で文化的な生活を営むことができる社会を実現するために制定されたこの条例。埼玉県ケアラー支援計画は、以下の基本目標を持っている。
(1)ケアラーを支えるための広報啓発の推進
(2)行政におけるケアラー支援体制の構築
(3)地域におけるケアラー支援体制の構築
(4)ケアラーを支える人材の育成
(5)ヤングケアラー支援体制の構築・強化
このケアラー支援条例は、全国初の画期的な施策だ。家庭で介護をすることの困難さが認識され、社会全体で介護を支えるため、2000年に介護保険法が施行された。しかし、蓋を開けてみればこの20年間、行政は介護事業所や施設を増やすに止まっていた。
しかし、介護が必要な人がみな施設に入居しているわけではない。在宅で専門職による介護を受けていたとしても、依然として家族には日常の世話など重い介護の負担がのしかかっている。中には、介護を理由に仕事を諦めざるを得ない、介護によって心身の健康を損ねる人も多く、そういった方々への支援はこれまで行われて来なかった。そんな中、埼玉県がこのような条例を施行したのはとても意義深いことだと思う。
***
家族を支えたい、ケアしたいと思う気持ちは、否定されるべきものではない。しかし家族へのケアが、その人の人生の枷になってしまうことは、あってはいけないことだと思う。介護は、される人だけではなく、する人も厚く支援されるべきだ。全国でもヤングケアラー 支援の動きが進み、介護によって人生の道が閉ざされることがない社会が来ることを望む。
介護施設の入居相談員として首都圏を中心に300ヶ所以上の老人ホームを訪問。1500件以上の入居相談をサポートした経験をもつ。入居相談コールセンターの管理者を経て現職。「メディアの力で高齢期の常識を変える」を掲げ、介護コンテンツの制作、セミナー登壇。YouTubeやX(旧Twitter)で介護の情報発信を行う。
小菅 秀樹さんの記事をもっとみるtayoriniをフォローして
最新情報を受け取る