高額医療・高額介護合算療養費とは?費用負担を軽減する制度と申請方法について

医療と介護の両方のサービスを受けている世帯は、かかる費用がどうしても高額になってしまいます。

そんなときに知っておきたい制度が「高額医療・高額介護合算療養費」です。医療保険と介護保険の合計自己負担額に上限が設けられていて、それを超えた分を払い戻してくれる制度。「高額医療・高額介護合算療養費」の仕組みや注意点などを詳しく解説します。

〈ポイント〉
◆高額医療・高額介護合算療養費制度は、医療と介護の両方を利用している世帯の負担を軽減。
◆1年間の基準額を超えた場合に、払い戻しを受けることができる。
◆世帯内の同一の医療保険に加入している方について合算できる。

制度の概要

医療費・介護費について

医療費・介護費の自己負担は一部分

医療保険と介護保険によって、医療費や介護サービス費は一部(1〜3割)を自己負担するだけでよいのはご存知のとおりです。ただ、1回ごとの自己負担は軽くても、長期間にわたって継続的に治療や介護サービスを受けると、家計における負担は重くなってきます。

月ごとに自己負担の上限額が決まっている

それを軽減するために、医療保険では「高額療養費」、介護保険では「高額介護サービス費」が用意され、月々の自己負担額が上限額を超えた際に、保険制度ごとに払い戻される仕組みがあります。それでも両方の負担が重なった世帯では、家計への負担は軽くありません。

年間の自己負担額を軽減する「高額医療・高額介護合算療養費」

そこで用意されているのが「高額医療・高額介護合算療養費制度」です。

医療保険と介護保険の両方のサービスを利用している世帯の負担を軽減するため、1年間に支払った自己負担額の合計が基準額より501円以上払った場合、申請をすることで超過分が「高額医療・高額介護合算療養費」として支給される制度です。

「高額療養費」「高額介護サービス費」が月ごとの自己負担額を抑える制度なのに対し、「高額医療・高額介護合算療養費」は年間の自己負担額を軽くできる仕組みです。

対象者について

「高額医療・高額介護合算療養費」の対象となるのは、以下の両方が当てはまる世帯です。

  • 各医療保険(国民健康保険、被用者保険、後期高齢者医療制度)における世帯内で、医療保険と介護保険の両方に自己負担額がある世帯(※1)
  • 1年間(8月1日~翌年7月31日)の医療保険と介護保険の自己負担合算額が、各所得区分に設定された限度額を超えた世帯

※1 医療保険上の世帯と、住民基本台帳上の世帯は異なることがあります。例えば、国民健康保険加入者と後期高齢者医療制度加入者は医療保険制度上の世帯が別なので、住民基本台帳上で同一世帯員であっても合算できません。

年間の自己負担限度額

高額医療・高額介護合算療養費制度の限度額は、所得や年齢などによって細かく設定されています。一般的な年収の156万~370万円の70歳以上世帯なら、自己負担限度額は年56万円。医療保険・介護保険の自己負担額の合計がこれを超えている場合は、払い戻すことができます。

自己負担限度額(年額)
70歳以上※1 70歳未満※1
年収約1,160万円以上 212万円 212万円
年収770万~1,160万円 141万円 141万円
年収370万~770万円 67万円 67万円
年収156万~370万円 56万円 60万円
市町村民税世帯非課税 31万円 34万円
市町村民税世帯非課税
(所得が一定以下)※2
19万円※3

※1 対象世帯に70~74歳と70歳未満が混在する場合、まず70~74歳の自己負担合算額に限度額を適用した後、残った負担額と70歳未満の自己負担合算額を合わせた額に限度額を適用
※2 被保険者とその扶養家族すべての方の収入から、必要経費・控除額を除いた後の所得がない場合
※3 介護サービス利用者が世帯内に複数いる場合は31万円

高額介護合算療養費の支給額の計算例

どのように払い戻しされるのか、具体例を見てみましょう。

〈70歳未満・年収156万~370万円〉の場合の計算例

夫(67歳)世帯主の自己負担額:医療費32万円、介護費7万円
妻(66歳)の自己負担額:医療費25万円、介護費25万円
世帯の負担額合計:医療費57万円、介護費32万円

医療費と介護サービス費を合算して、57万円+32万円=89万円

自己負担限度額は67万円なので、89万円-67万円=22万円が、医療保険と介護保険から比率に応じて支給されます。

〈70歳以上・年収156万~370万円〉の場合の計算例

夫(74歳)世帯主の自己負担額:医療費20万円、介護費35万円
妻(73歳)の自己負担額:医療費32万円、介護費13万円
世帯の負担額合計:医療費52万円、介護費48万

医療費と介護サービス費を合算して、52万円+48万円=100万円

自己負担限度額は56万円なので、100万円-56万円=44万円が、医療保険と介護保険から比率に応じて支給されます。

高額介護合算療養費の申請について

支給条件に該当するかどうか

「高額医療・高額介護合算療養費」が適用されそうな人に、「申請のご案内」を届けてくれる自治体があります。自治体によって異なりますが、12月頃から順次送付が始まります。ただし、以下に該当する人は通知が届かないことがあります。

<8月1日から翌年7月31日までに>
・市町村を越えて転居した人
・他の医療保険制度から国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入変更した人
・医療保険と介護保険の保険者が違う人

そもそも通知を送らない自治体もあるので、お知らせがない場合でも、「医療費と介護費の自己負担額がかさんでいるな」と思ったら、市区町村の担当窓口に個別に問い合わせてみるとよいでしょう。

申請の流れ・申請に必要な書類

国民健康保険および後期高齢者医療に加入している人

申請窓口
市区町村
申請に必要なもの
  • 健康保険証(国民健康保険証、後期高齢者医療証、社会保険証等)
  • 介護保険証
  • 通帳など振込先口座番号のわかるもの
  • 計算期間内で保険者が変わっている場合は、以前に加入していた保険者が発行した自己負担額証明書

※医療・介護の領収書は必要ありません
※自治体によっては印鑑、マイナンバーカード、本人確認書類などが必要な場合があります。詳しくはお住まいの自治体にお尋ねください。

被用者保険に加入している人

申請窓口
被用者保険

申請の流れ

1.市区町村に「支給申請書兼自己負担額証明書交付申請書」を提出

2.市区町村から介護自己負担額証明書が送られてくる

3.介護自己負担額証明書に介護自己負担額証明書を添えて被用者保険に提出

4.被用者保険が市区町村へ支給額を連絡

5.高額医療・高額介護合算療養費が支給される

高額医療・高額介護合算療養費は自己負担額の比率に合わせて医療保険と介護保険から振り込まれます。介護保険にかかる部分は「高額医療合算介護サービス費」、医療保険にかかる部分は「高額介護合算療養費」として支給されます。

申請時の注意点

算定期間は8月1日〜7月31日

毎年8月1日から7月31日が算定期間となります。介護サービスを7月中に受けるか、8月にするかで、払い戻し金額が変わってくることがあるので注意が必要です。

対象にならない費用もある

対象外の介護費

福祉用具レンタル料、福祉用具購入費、スロープ設置など住宅改修費、居住費、滞在費、食費、差額ベッド代など。

対象外の医療費

入院時の食事代、差額ベッド代、保険適用外の手術代、高度先進医療費、予防注射、お産、美容整形手術代など。

70歳以上の人はすべての自己負担額を合算の対象にできますが、70歳未満の人の医療保険の自己負担額は、医療機関等ごとに1ヶ月 2万1,000円以上のもののみ合算対象になります。調剤の自己負担分は、処方した医療機関の自己負担額に合算されます。

医療保険の高額療養費、介護保険の高額介護サービス費で還付された金額は、かかった費用から差し引いて計算します。

同一世帯の判断は、住民基本台帳通りではない

普段私たちが「世帯」と言えば、住民基本台帳上の世帯を指しますが、医療保険上の世帯は別の概念になります。合算できるのは医療保険上の世帯なので注意してください。国民健康保険加入者と後期高齢者医療制度加入者は別世帯になります。

医療保険と介護保険の両方を使わないと対象にならない

1年間で利用したのが医療保険だけ・介護保険だけの場合(どちらかの自己負担額が0円の場合)は、高額医療・高額介護合算療養費の対象から外れます。

支給額が500円以下の場合は使えない

支給基準額として500円が設定されています。自己負担額と負担限度額の差が500円以下の場合は制度が使えません。支給額が501円以上のときのみ利用することができます。

申請期限は2年間

基準日の7月31日の翌日を起算日として2年が申請期限です。それを過ぎると時効で請求権が消滅します。被保険者が亡くなった場合は、死亡日の翌日から2年間です。

まとめ

医療費・介護費はいったん使い始めると、なかなか減額するのが難しい費用です。知らず知らずのうちに家計を圧迫していることもあります。「高額医療・高額介護合算療養費」が受け取れそうなら、迷わず申請しておきましょう。

過去の費用に関しても、2年間はさかのぼって申請することができます。「市をまたいで引越しをしたため自治体側で捕捉できず申請漏れになっている」などといったケースがあるなら、忘れず申請して負担を軽減してもらいましょう。

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この記事の制作者

田中紘太

監修者:田中紘太(株式会社マロー・サウンズ・カンパニー 代表取締役)

併設の介護サービスを持たない単独型居宅介護支援事業所を5軒運営。ケアマネジャー向け研修動画サイト「Diversitv」運営。居宅介護支援事業所に係る厚生労働省老人保健健康増進等事業において2019年度、2020年度、2021年度と複数委員会にて委員を務める。その他介護支援専門員の職能団体理事を歴任。研修講師としても、全国各地の自治体、職能団体から依頼を受け講演活動を行う。

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