【ケアマネが解説】父を介護する息子│つまずかないための4つの注意点

父親と息子の介護には、男性同士ならではの注意したいポイントがあります。

父親に対して「娘」と「息子」では、関係性が大きく異なります。男性同士の場合、お互いにプライドが邪魔をして、頼りづらい関係性になってしまうことがあるのです。

父親と息子の介護だからこそ、失敗してしまうところや、介護するときにつまずかないための注意点を見ていきましょう。

介護生活をきっかけに環境が変化する

介護生活が始まり最初に直面するのは、介護をする自分を取り巻く環境の変化かもしれません。

仕事をしている息子は、職場に介護生活が始まることを伝えます。いざ介護が始まると自分のペースで残業もできなくなり、時間に対して今まで以上にシビアになるでしょう。また、職場の同僚も気を使って、飲み会などの誘いも控えるようになるかもしれません。

また、父親の介護を優先するあまり、自分の自由な時間も限られてきます。楽しんでいた趣味や余暇の時間を捻出することができず、友人や趣味仲間との連絡も取れなくなり、徐々に疎遠になってしまうこともあります。

このように、介護生活が始まると人間関係が変化することや、仕事と介護の両立が困難で仕事を辞めざるを得ない、といった環境の変化があります。

注意点としては、どんなに環境が変化しても孤独にならないことです。同じように親の介護をしている人とSNSで交流したり、地域の介護教室で介護者同士が知り合うことで、新たな出会いもあるかもしれません。

また、公的な介護サービスを利用することで、自分の時間をつくることができるかもしれません。特に男性は責任感が強いので、「介護も自分の責任」と背負い込みやすいところがあり、誰にも相談せず孤独にもなりがちです。

しかし、「介護をしているから仕方がない」と孤独な環境を受け入れるのではなく、前向きに環境を変化させていくことは、長い介護生活をするうえで、大切なポイントなのです。

実の父親だからこそつまずきやすい4つのポイント

1.介護が必要な父親を受け入れられない

息子にとって、父親は威厳があり、尊敬できる存在である方が多いのではないでしょうか。

そんな父親が、介護の必要な状況になり、誰かに頼らないといけなくなったときに、息子はそのような父親の姿に戸惑ってしまうことがよくあります。

身体が弱っていく父親とどう接すればいいのかわからなくなり、無意識に距離を置いてしまうこともあるかもしれません。

身体的な衰えと同時に意欲も低下し、父親が弱音を吐くことは特別なことではありません。老いる過程の中で誰しも経験することです。介護をしている息子自身も、年を取れば同じことがやってくるでしょう。

介護を始めて間もないころは、受け入れられないかもしれませんが、父親に戸惑う素ぶりを見せないように、注意して介護をしましょう。

そのような姿を父親に見せてしまうと、父親も戸惑ってしまい、悲観的になったり、介護を拒否し心を閉ざしてしまうかもしれません。

そのような失敗をしないためにも、今まで育ててくれた恩返しと思って、父親に接してみましょう。すると、父親と良い距離感で介護できるかもしれません。

また、今まで父親に「自分達に迷惑をかけないようにしてほしい」と話をしてきたかもしれませんが、支えることに思考を切り替えましょう。

父親は身体的に不自由であり、求められても応えられないことの方が多いでしょう。求めるのではなく、ありのままの父親を受け入れるようにしましょう。

3.男性は自分の弱みをさらけだせない

プライドを高く持っている男性もいます。そのプライドが邪魔をして、自分の弱みをさらけ出すことに抵抗が生じるものです。

特に、排せつの失敗や、オムツ交換が必要になったとき、父親のプライドは深く傷ついているかもしれません。誰にも知られたくないのに、自分の弱みを見られてしまっているからです。

こういう場面に「おやじ、何おしっこ漏らしているんだよ」などと、良かれと思って冗談めいた声かけをしてしまうと、父親のプライドは傷つくものです。

介護を受けているということだけで、すでに傷ついていることでしょう。たとえ冗談であっても、本人の尊厳を傷つけないような声かけをするように心掛けましょう。

4.自力でなんとかしようという思考に陥る

息子がする介護に良くみられることですが、自分でなんでも解決しようとする傾向にあります。周りの人に協力を求めたりせずに、父親のために自分でどうにかしようと行動します。

しかし、介護という場面では、自分ひとりでは解決できないことも多くあります。ここで私が担当していた利用者様で、実際にあった事例を見てみましょう。

事例:78歳父親を介護するAさん

  • 長男のAさんは自宅で父親と二人暮らし。要介護の認定を受けているものの介護サービスを利用せず、父親の身の回りのことを全てAさんが看ていました。

    ある年の夏、父親の体調が悪くなり布団に横になっている時間が長くなります。すると尾骨あたりの皮膚が赤くなり、痛みを訴えるようになりました。

    Aさんはネットで調べて、痛み軽減のためエアーマットレスを購入します。しかしそれを用いても赤みは消えず、皮膚がえぐれてきてしまったのです。
    さらに食欲も低下してきたため、Aさんはまたネットで調べて、高カロリー飲料などを購入して父親に飲ませるようにしていました。


    父親の体調は一向に良くならず、たまたま訪れたAさんの妹が父の姿を見て驚き、ここで初めて介護サービスの相談をケアマネジャーに行います。

    すると訪問診療の先生が早々に来て、点滴の投与や尾骨の皮膚のケアをしてくれました。その時の室内は暑く、湿度も高い状況でした。また息子がインターネットで調べて購入したエアーマットレスは、皮膚の赤みに効果のあるものではなかったのです。

    その後、介護ベッドと床ずれ予防用のエアーマットレスを介護保険でレンタルし徐々に回復したのです。

このように自分でどうにかしようと、Aさんなりに考え動いていましたが、結果として父親の身体はどんどん悪くなってしまった、という事例です。

自分で調べ、動くことは何も悪いことではありません。

しかし、それが正しいのか不安に思ったときや、状況が改善されない場合は、早急に相談しましょう。場合によっては、事例のように医師やケアマネジャーなどの専門家に力を借りないと、改善しない場合もあります。

周囲に相談することや協力を得ることは、恥ずべきことではありません。一人で抱えずに周囲に相談するようにしましょう。
 

周囲に迷惑をかけてもいい

ここまで、父親の介護でつまずきやすいポイントをご紹介しました。

先の事例でも言えることですが、特に男性は”人に迷惑をかけないように”と、一人で抱えてしまう傾向があります。

介護を受ける父親の立場からすると”誰にも迷惑をかけたくない“という気持ちが先行し、多少の不自由や苦痛を我慢してしまうこともあるかもしれません。

また、息子の立場からすると、”父親の介護を自分でしないといけない”と、その責任感から一人で抱え込み、誰にも相談できないという状況があります。

介護につまずかない最大のポイントは、父親も息子も、周囲に迷惑をかけてもよいという考えをもつことです。

介護は一人で行うものではなく、さまざまな人の助けを借りて行うものです。それを迷惑と感じるのではなく、他者に協力を求めると考えるようにしましょう。

人は誰しも支えあって生きています。介護も支えあいの一つだと思って、父親も息子も我慢や抱え込むことがないようにすることが、介護につまずかないポイントなのです。

さまざまな人に協力してもらうことで、より良い介護が実現できます。支えあいながら介護生活を楽しく続けましょう。

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この記事の制作者

森 裕司

著者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)

株式会社HOPE 代表取締役 
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。

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