廃用症候群とは|症状や予防方、リハビリまで網羅的に解説します

廃用症候群は、過度な安静や寝たきりなど身体を動かさないことで起こる障害の総称です。症状は多岐に渡りますが、適切に予防することでリスクヘッジが可能。原因やリハビリについても触れているので、ぜひ参考にしてください。

廃用症候群とは?

廃用症候群は安静や寝たきりの状態が長期間続くなど、身体を動かさない時間が長くなることで起こる障害の総称です。運動量が極端に低下することで心身に不調をもたらします。特に高齢者は加齢により身体機能が低下しているため、活動量低下により、廃用症候群になりやすいといわれています。

廃用症候群の症状

筋骨格系
循環器系
呼吸器系
泌尿器系
皮膚系
消化器系
神経系

廃用症候群の症状は主に上記に分類できます。それぞれ対応策が異なりますので、症状については適切に把握しましょう。

筋骨格系

人間の筋力は、1週間の絶対安静で10~15%、3~5週間で50%まで低下します。また筋肉の萎縮も同時に起こり、2か月以内に筋肉の量は半分に。動かないことは関節にも影響し、関節が動かしにくくなったり、広がる幅が狭くなったりします。理学療法や作業療法などのリハビリを行うことで改善が可能です。

循環器系

ベッドに横になっていることで、心臓から血液が全身に運ばれにくくなります。寝たきり状態だと、心臓から送られる1回の血液の量が6~13%減少。それにより体全体に酸素が運ばれにくくなり持久力もさがります。

また、起き上がろうとしたときに血圧の低下が見られる起立性低血圧も起こりやすくなるのです。ほかには足のふくらはぎ部分に血の塊ができる深部静脈血栓症などの症状もみられます。

予防には充分な水分と塩分をとり、医師と相談しながらリハビリを行いましょう。深部静脈血栓症の予防には弾性ストッキングをはくことが効果的です。

呼吸器系

横になっていることで呼吸するための筋肉が動かしにくくなり、呼吸が浅くなります。その結果、呼吸回数が増えることに。

呼吸のための筋肉が動かしにくいと、咳がしにくくなり気道内の分泌物がたまりやすく誤嚥性肺炎の原因になります。誤嚥性肺炎は高齢者が死亡する大きな原因の1つになっているため、呼吸器機能の低下による誤嚥には注意が必要です。

誤嚥性肺炎

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呼吸器疾患の予防に大切なこと

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泌尿器系

つねに寝ていることで、尿が膀胱や尿道にたまりやすくなり、尿路結石や尿路感染症の原因になります。これに対しては、充分な水分を摂ることが予防になります。また膀胱や尿道を空にするためには、オムツや尿器を使わず、できるだけトイレで排尿しましょう。

皮膚系

長い間、同じ姿勢でベッドに横になっていることにより、体の一部が圧迫され血行障害が起こります。これにより圧迫された部分の皮膚が壊死する状態が床ずれ(褥瘡:じょくそう)です。

予防には、同じ姿勢で2時間以上寝ないことや保湿クリームの塗布などが挙げられます。

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消化器系

環境の変化や活動量が低下することで起こる食欲低下、便秘などの症状が見られます。便秘の予防には水分を摂取すること。そして、食後は必ずトイレに座って様子をみるなどがおすすめです。

神経系

急な環境の変化や不安などが原因で、抑うつ状態や認知機能の低下が見られます。家族や病院のスタッフと会話したり、楽しいと感じたりすることを生活の中にとりいれるようにしましょう。

廃用症候群の原因

廃用症候群の原因には、活動量の低下が挙げられます。

例えば、ケガや病気、加齢で寝たきり状態になると筋活動量が低下します。廃用症候群の症状が出ることで、さらに活動量は下がり状態が悪化するという悪循環が発生するでしょう。

周囲の環境も重要です。介護力不足による外出などの活動機会の減少で結果として「寝かせきり」を招いたり、過剰な介護により本人ができることまで介護者が行なうのは、意欲減退のきっかけに。廃用症候群を予防するためにはこのような原因を理解して正しい介護を行うことが大切です。

廃用症候群の予防法

身体を動かす機会を作る
バランスの良い食事を摂る
精神面に注意

廃用症候群の予防には、前述した活動量低下を防ぐのがポイントです。上記の3つを組み合わせて行うと良いでしょう。被介護者の状態によってできることも左右されるため、状況を見ながら取り入れてください。

身体を動かす機会を作る

身体を動かすことは活動量低下に加えて、筋力低下の防止、意欲の向上にもつながります。被介護者ができることは自分でやるのが大切です。

「買い物へ行く」「トイレまでは自分で歩く」など、生活の中で無理なく継続できるように、それぞれのレベルに合わせて行うのがポイント。その他の具体例は下記の通りです。

予防に効果的な行動例

  • 近くへ買い物に行く
  • 車いすではなく手すりを持って歩く
  • 自分で家事をする
  • 寝るよりも座る時間を多くする
  • 寝たまま軽く足を動かしてみる

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バランスの良い食事を摂る

体力低下や筋力低下の観点からも、バランスの良い食事を摂ることが重要です。特に高齢者の大半は十分な栄養が不足しているといわております(低栄養状態)。食事が摂れなくなり体力が下がると、意欲や活動量も低下して廃用症候群のきっかけに。本人が食事を摂りやすい状況を整えることが大切です。

例えば「入れ歯が合っているか確認する」「食材を刻んで食べやすい大きさにする」などのほか、以下のような点が挙げられます。

食事を摂りやすい環境作りのポイント

  • 口腔内を清潔に保つ
  • 入れ歯が合っているか確認する
  • 歯がなければ入れ歯を作る
  • 食べにくいものは刻む・トロミをつける
  • 気が散らないように食事中はテレビを消す
  • 誰かと一緒に食事を食べる
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効率よく栄養を補う

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気分転換を行う

活動量には精神面も大きく関わっているため、気分転換も廃用症候群の予防に有効です。老人性うつや周囲への無関心などの状態に陥ってしまうと活動量を下げる要因に。

散歩、音楽を聴く、デイサービスへの参加など、気分転換を行うことで活動性が上がり、廃用症候群の予防につながります。介護者の方は本人が適度に気分転換できるように心がけてみてください。

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廃用症候群のリハビリ

名称 内容
関節可動域訓練

・固まった関節を動かす訓練

・基本的にベッド上で行う

・膝や、肘などの大きな関節から手関節などの小さな関節までしっかり動かす

レクリエーション

・運動や気分転換を目的として行う訓練

・ベッドサイドで、1対1で行うケースや集団で行うものもある

・ボール遊びから、歌など方法はさまざま

ポジショニング

・床ずれ予防や、関節が固まらないようにすることを目的とした訓練

・寝ている時の体の向きを整えることで、床ずれ予防や、足を伸ばして寝ることで、関節が固まることを防ぐ

入院や手術などで長期安静が必要な場合は、誰でも廃用症候群になる可能性があります。そのため、入院期間中は医師の指示に従ってリハビリを行います。リハビリは前述した「身体を動かす機会」になるほか、人とも関わるため気分転換も可能。うつや精神状態による活動量低下の予防にもつながるでしょう。

ご家族が行うこと

家族ができることで、大切なのは「入院前に本人がどれくらい動くことができたか」を、担当医や医療スタッフへ伝えることです。自宅での様子を話すことで、リハビリで患者がどこまで回復するかの目処になります。

リハビリを経ても、「入院前より動けなくなっている」「自宅で生活できそうにない」という状態なら、リハビリ専門の病院へ転院するか、一時的に施設入居を検討するしかありません。

介護施設は種類ごとに目的があります。特に介護老人保健施設はリハビリを行い、自宅へ帰ることを目的としており、在宅復帰を目指す方におすすめです。

施設を含めた退院に向けての相談は、病院の社会福祉士や担当のケアマネジャーに行います。リハビリができる施設数は多いため、ご家族の方は複数の施設を比較して決めると良いでしょう。

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原因や予防策を理解して廃用症候群のリスクを減らそう

廃用症候群は長期の安静が続くと誰にでも起こる可能性があります。記事内で紹介したように症状も実に様々。原因や予防策を把握することで発症のリスクを下げることができるため、本記事を参考に対策してみてください。

廃用症候群を発症してしまった場合はリハビリが必要になります。状態が思うように改善しない場合はプロの力を借りるのも1つの手です。「LIFULL 介護」ではリハビリに力を入れている施設を紹介中。また、入居相談窓口では専門のスタッフが入居までサポートします。施設利用を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。

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イラスト:坂田優子

この記事の制作者

山本 武尊

監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)

地域包括支援センター センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。

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