
人間は1週間寝たきり状態になると15%の筋力が低下し、3~5週間で50%もの筋力が落ちるといわれています。
これは高齢者だけでなく若者にも現れる症状ですが、実際には「廃用症候群」の症状を訴えるのは高齢者がほとんどです。
ここでは廃用症候群のメカニズムから症状、予防法までを紹介していきます。
- 【目次】
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廃用症候群│なぜ高齢者ほどなりやすい?
廃用症候群とは「長期臥床(寝たきり)により、心身の活動性が低下してきたことにより引き起こされる病的状態」と定義されています。
これは入院などで寝たきりの状態を余儀なくされ、運動量が減ることで起こる心身の機能低下を廃用症候群と呼んでいます。
廃用症候群は高齢者だけではなく、子どもや若者にも現れる症状です。特に高齢者に廃用症候群が多いのは、加齢によりすでに身体機能が低下し始めているためといわれています。
その状態で長期間活動量が低下すると機能低下が加速し、廃用症候群が起こります。
無数にある!廃用症候群の症状
廃用症候群の症状は、身体面や精神面などさまざまな症状として現れます。
筋骨格系
人間の筋力は、1週間の絶対安静で10~15%、3~5週間で50%まで低下します。また筋肉の萎縮も同時に起こり、2か月以内に筋肉の量は半分になるといわれています。
動かないことは関節にも影響し、関節が動かしにくくなったり、広がる幅が狭くなったりします。これに対しては、理学療法や作業療法などのリハビリを行うことで改善につながります。
循環器系
ベッドに横になっていることで、心臓から血液が全身に運ばれにくくなります。寝たきり状態だと、心臓から送られる1回の血液の量が6~13%減少。それにより体全体に酸素が運ばれにくくなり持久力もさがります。
また、起き上がろうとしたときに血圧の低下が見られる起立性低血圧も起こりやすくなるのです。ほかには足のふくらはぎ部分に血の塊ができる深部静脈血栓症などの症状もみられます。
予防には充分な水分と塩分をとり、医師と相談しながらリハビリを行いましょう。深部静脈血栓症の予防には弾性ストッキングをはくことが効果的です。
呼吸器系
横になっていることで呼吸するための筋肉が動かしにくくなり、呼吸が浅くなります。その結果、呼吸回数が増えることに。
呼吸のための筋肉が動かしにくいと、咳がしにくくなり気道内の分泌物がたまりやすく肺炎の原因になります。
予防には深呼吸や腹式呼吸。呼吸器専門のリハビリをうけましょう。
泌尿器系
つねに寝ていることで、尿が膀胱や尿道にたまりやすくなり、尿路結石や尿路感染症の原因になります。
これに対しては、充分な水分を摂ることが予防になります。また膀胱や尿道を空にするためには、オムツや尿器を使わず、できるだけトイレで排尿しましょう。
皮膚系
長い間、同じ姿勢でベッドに横になっていることにより、体の一部が圧迫され血行障害が起こります。これにより圧迫された部分の皮膚が壊死する状態が床ずれ(褥瘡:じょくそう)です。
予防には、同じ姿勢で2時間以上寝ないことや保湿クリームの塗布などが挙げられます。
消化器系
環境の変化や活動量が低下することで起こる食欲低下、便秘などの症状が見られます。便秘の予防には水分の摂取すること。そして、食後は必ずトイレに座って様子をみるなどがおすすめです。
神経系
急な環境の変化や不安などが原因で、抑うつ状態や認知機能の低下が見られます。家族や病院のスタッフと会話したり、楽しいと感じることを生活の中にとりいれるようにしましょう。
廃用症候群の予防法
入院や手術などで長期安静が必要な場合はだれでも「廃用症候群」にかかる可能性があります。入院期間中は、医師の指示に従ってリハビリを行いましょう。
家族としてできることは、まずは担当医に「入院前どれくらい動くことができたか」を伝えることが大切です。
担当医はすでに入院し安静にしている患者の状態しか知りません。ご家族が入院前の自宅での様子を話すことで、担当医は患者がどこまで回復するかを予想でき、それにあったリハビリを指示してくれる可能性があります。
また自宅で長期安静が続いているご家族がいらっしゃる場合は、担当医に相談し、廃用症候群にならないための在宅リハビリを指示してもらいましょう。
リハビリは、目的や効果を理解して行うのが重要です。そして、患者本人が楽しめずにやっている場合は効果があがりません。「やらされている」という感覚が少しでも見られる場合は、少しでも興味を持つような内容にかえてもらえるように医師や看護師、ケアマネージャー、理学療法士、作業療法士などに相談するとよいでしょう。
まとめ
長期の安静などが続くとだれにでも起こる可能性がある廃用症候群。
症状の種類は筋力低下や筋肉の萎縮から抑うつ状態、認知機能の低下までさまざまです。
予防で重要なのは、安静状態がはじまった初期の段階で医師に相談しリハビリを開始すること。
さらに患者本人が楽しみながら行えるリハビリを続けることです。
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イラスト:坂田優子
この記事の制作者
著者:橋本 優子(看護師編集者)
大学卒業後、出版社にてビジネス誌の編集に携わる、その後、出産をきっかけに看護師資格を取得。病院勤務後、「看護」「医療」の知識を活かした情報発信をするため、現在は健康に関する記事の企画、取材、執筆、編集までを行う。
監修者:山口 潔(ふくろうクリニック等々力 理事長・院長)
日本老年医学会老年病専門医・指導医
日本内科学会総合内科専門医
日本プライマリ・ケア連合学会 プライマリ・ケア認定医
日本緩和医療学会指導者研修会修了
当院では、筋力・筋肉量が減ってしまった方のための「サルコペニア・フレイル外来」や、在宅でリハビリが必要な方のための「リハビリテーション科外来」という専門外来を行っています。