【理学療法士が解説】高齢期の歩行|歩くことのメリットと健康習慣
歩くことには多くの利点があります。最近の研究によると、歩くことは体力などの運動面だけではなく、認知機能低下を予防するといった点でも効果があるといわれています。
このページでは歩くことの良さを再確認するとともに、いつまでも健康的に歩けるための身体づくりについて解説します。
歩くことがなぜ重要か
歩行は「トイレに行く」「買い物に行く」「外出する」など、日常生活における基本的かつ重要な動作です。なぜ重要なのかみていきましょう。
普段から歩かないと"歩けなくなる"
歩行する機会が少なくなると、部屋の中に閉じこもり傾向となってしまいます。活動量が低くなり廃用症候群を引き起こし、最悪の場合は寝たきりになってしまう原因となります。
- 廃用症候群とは、病気やケガなどが原因で、長期間の間ベッド上の生活をすることにより身体能力や精神状態が低下してしまう症状のことをいいます。
転倒しやすくなる
歩かなくなると筋力が弱くなったり、歩行時に足のひっかかりがみられ、転倒しやすくなります。高齢者が転倒をすると、骨折から要介護状態になる可能性があるため「転ばないこと」に注意が必要です。
外出する機会が減る
外出機会が減ると日常生活において意欲の低下がみられ、精神的な落ち込みがみられる場合があります。その落ち込みが強いときは認知症やうつ状態を引き起こすこともあり、日常生活においても大きな影響が出てしまいます。
このように、日常生活において歩行は単なる移動手段ではなく、自分らしい生活を過ごすために重要な動作となります。
1日20分のウォーキングからはじめよう
厚生労働省の「健康日本21」によると、理想的な1日の歩数は、男性では9,000歩、女性では8,500歩と、約1万歩程度歩くことを推奨しています。しかし、普段から歩く習慣がない人に、いきなり1万歩を歩くことは難しく身体的な負担も大きいでしょう。
まずは、1日20分程度のウォーキングからはじめましょう。習慣が身につくことで、健康的に歩くことができるようになります。
歩行と健康の関係性
歩行と健康にはどのような関係性があるのでしょうか。歩くことを習慣化することのメリットを紹介します。
生活習慣病の予防
栄養を摂るために食事は欠かせないもの。しかし、食べ過ぎて摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ってしまうと、使われなかったエネルギーは脂肪として蓄えられていきます。この状態が続くと肥満になります。
そして、その肥満が原因となって糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病になる危険性が高くなってしまいます。
これらを予防・改善するために行うべきことが、歩行による有酸素運動です。平成26年度 厚生労働省白書では、運動などをよく行う人たちは、行っていない人たちに比べて生活習慣病にかかる可能性や死亡率が減少するという結果が出ています。
睡眠の質が向上する
現在は不規則な生活を送っている人も多く睡眠不足になりがち。また、質の悪い睡眠だと慢性的な寝不足になってしまっている人も多くいます。
この寝不足の原因として自律神経のバランスが悪い場合も多くみられます。このような人に対してはウォーキングのような足を使う運動は副交感神経の働きを活発にしてリラックス効果がみられ、睡眠の質が向上されます。
骨が丈夫になり骨粗鬆症の予防になる
骨を丈夫にするにはカルシウムを取ることが有名ですが、実はそれだけでは骨は丈夫になりません。カルシウムを取り骨に刺激を与えることが重要なのです。
現代社会においては車での移動が多いことから、骨や筋肉への刺激が不足しています。そのため、骨に刺激を与える手段としてウォーキングは非常に効果的なのです。
歩けなくなってしまう原因
普段の生活から歩く頻度が減ると、外出機会も減り身体能力の大幅な低下や精神状態に悪影響をもたらす症状である廃用症候群に繋がります。
廃用症候群の進行は早いため、特に高齢者は気を付けなければなりません。例えば1週間寝たままの状態を続けると、筋力の低下や、気分的な落ち込みもみられてうつ状態になったりと、精神面にも影響します。
その結果、筋肉が痩せ落ちてしまったり、関節の動きが悪くなり健康的に歩くことができなくなるのです。
このように、廃用症候群や関節の動きが悪くなることで、健康的に歩くことができなくなってしまうのです。
歩行と認知症の関係
近年、歩行と認知症の関係性は非常に強いといわれています。
認知機能と歩行との関係性
認知機能と歩行との関係性に関しては、2012年にカナダで行われた国際アルツハイマー病会議では、歩行速度の遅れや歩幅の変化などの歩行障害は認知機能の低下を表している可能性があると報告されており、認知機能の低下が重い人ほど歩行速度が遅くなるといわれております。
ただ注意する点といえば、歩行障害があるからといって必ず認知症が起こってしまうということはなく、あくまでも認知症を予測する1つの評価方法として考えておくことが重要になります。
【動画】いつまでも健康に歩くための体操
ここまで歩行を行うことによる重要性について解説しました。ここでは、いつまでも健康的は歩行を続けるために効果的な体操を紹介します。
骨盤の運動
- 1. 椅子に腰を掛けて両手を横に広げます
2. 右側のお尻に体重をのせて左側のお尻を浮かせます。その際、腕が斜めにならないようにします。
3. 続いて逆の左側のお尻に体重をのせて右側のお尻を浮かせます。
お尻歩き
- 1. 椅子にしっかり座ります
2. 右側のお尻に体重をのせて左側のお尻を前に出します。
3. 左側に体重をのせて右側のお尻を同じように前に出します。
4. 右側のお尻に体重をのせて左側のお尻を後ろに戻します。
5. 左側に体重をのせて右側のお尻を同じように後ろに戻します
足踏み
- 1. 椅子にしっかり座ります。
2. 右側のお尻に体重をのせて左側の足を上げます。
3. 左側に体重をのせて右側の足を同じように上に上げます。
4. 左右の足を交互に上げ下げをしてその場で足踏みを行います。
ひじ、ひざ合わせ
- 1.椅子にしっかり座ります。
2.椅子に座ったまま左足を上げて同時に反対側の右肘につけるようにします。
3.左足を下ろして逆に右足を上げて同時に反対側の左肘につけるようにします。
ふくらはぎの運動
- 1.椅子にしっかり座ります。
2.左足を少し前に出します。
3.左足のふくらはぎを上げてその力に対して両手を膝にのせて押し返します。
4.左足を戻して、逆の右足を少し前に出します。
5.右足のふくらはぎを上げてその力に対して両手を膝にのせて押し返します。
すねを鍛える運動
- 1.椅子にしっかり座ります。
2.右足を左足のつま先の上に足を置きます。
3.左足のつま先を上げるようにし、右足で押し返します。
4.左足を右足のつま先の上に足を置きます。
5.右足のつま先を上げるようにし、左足で押し返します。
ふとももを鍛える運動
- 1. 椅子にしっかり座ります。
2. 左膝をしっかり伸ばします。
3. 左膝を伸ばしたまま足首を前後に動かします。
4. 右膝をしっかり伸ばします。
5. 右膝を伸ばしたまま足首を前後に動かします。
毎日少しづつ無理のない歩行習慣を
今回はいつまでも健康的に歩くために歩くことによる良さを運動的な面と認知面的な面の両方から解説しました。
歩くことは、身体によい影響を与えます。無理しない程度で、継続的に歩くことを行い、いつまでも健康的な身体を保ち続けるようにしましょう。
【PR】介護が必要になったら、操作不要の【簡単テレビ電話】が便利(外部リンク)イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:野田 政誉士(理学療法士)
(理学療法士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター2級)
およそ10年間、理学療法士として病院に勤務。現在は臨床と管理業務の両方を行っており、医学的知識だけではなく、マネジメント業務にも力を入れている。