【2021年最新】【知っておきたい】認知症の治療方法、つづけ方のポイント

現在、ごく一部の例外(※)をのぞき、認知症の進行を完全に止める方法や、根本的な治療方法はみつかっていません。

そのため、認知症の治療は、認知症の進行を緩やかにし、生活の質を高めることを目的とします。

認知症の治療には大きく分けて「薬物治療」と「非薬物療法」があります。このページではそれぞれの治療方法について解説します。

※正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫など

薬物療法

認知症に対する薬物療法は大きく分けて、中核症状の進行を抑えることをねらいとした認知機能改善薬によるものと、行動・心理症状の軽減をねらいとした向精神薬や睡眠薬によるものとに分けられます。

認知機能改善薬

認知機能改善薬は一般に抗認知症薬とも呼ばれます。主に以下の2種類の機能の薬があります。

これらの認知機能改善薬は中核症状の進行を抑制し、比較的軽度な状態を長く保つことができるとされていますが、根本的に進行を食い止めるものではありません。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

アセチルコリンとは、脳内では記憶保持や集中、覚醒などの作用がある神経伝達物質です。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬はアセチルコリンの分解を抑制し、脳内の相対的濃度を高めることで、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の中核症状の進行を抑制するとされています。

主にアルツハイマー型認知症の軽度~中等度の段階を中心に幅広く服用されています。

一方で、アセチルコリンは全身に幅広く作用する神経伝達物質なので、特に薬物が最初に吸収される消化器に作用し、副作用として吐き気や下痢、食欲不振があらわれることがあります。

運動器ではふらつきなどの歩行障害がみられています。

また、精神的な副作用として攻撃性の増加や興奮があり、暴言や暴力などにつながることがあるため、注意が必要です。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬として現在日本で認可されているのはドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンで、全て同じ作用の薬物です。

消化器の副作用が出やすい場合には、シールのように皮膚に貼りつけて吸収させるリバスチグミンのパッチ剤を用いるなど使い分けることがありますが、パッチ剤と経口剤を併用することはありません。

NMDA受容体拮抗剤

グルタミン酸は脳内の興奮性の神経伝達物質です。NMDA受容体拮抗剤がグルタミン酸の作用を弱めることで、過剰な興奮による脳神経の損傷を抑え、中核症状の進行を抑制するといわれています。

比較的重度の認知症にも用いられ、興奮を抑制する作用もあることから、行動・心理症状の興奮や暴言・暴力などの攻撃性に対する効果も期待されています。

現在日本ではメマンチンが認可されています。副作用としては主にめまいや眠気が報告されています。

NMDA受容体拮抗剤とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とは効果をもたらすしくみが異なるため、これらが併用されることもあります。

認知機能改善薬を使用するときの注意

副作用をしっかり見守り報告する
副作用は薬物により引き起こされている症状であり、放置していいわけではありません。
薬は一般的に、服用開始と増量時に副作用が発症・悪化する傾向があるといわれています。
認知機能改善薬でも、特に服用開始または増量時に周囲の方は気をつけて観察し、それまでにはみられなかったのにこのタイミングで生じた症状があったら、必ず医師や薬物師に相談してください。
中核症状の進行抑制が生活の質の向上に直結するわけではない
薬の力で進行を緩やかにする間に、ご本人とご家族に適したサービスを導入し、環境調整を行わなければ、結果としてご本人の生活の質は上がりません。
ゆっくりと状況に慣れ、安全と安心の介護体制を整える猶予を与えてもらえるものとして、薬を使用するとよいでしょう。

行動・心理症状への軽減を目的とした薬物治療

行動・心理症状による生活の悪影響を抑えるために、以下のような薬物が処方されることがあります。

睡眠薬(睡眠導入剤)

不眠に対し使用されます。睡眠が十分とれないと、不眠により日中にぼんやりし認知機能が落ちる、昼夜逆転し夜間に不安に駆られ大声をあげるなど、生活の質に大きくかかわるため、睡眠薬が使用されることがあります。

一方で、夜間にトイレに起きた際にふらつき転倒してしまう、翌朝にも効果が残り居眠りをしたりせん妄状態になるなどの副作用もあります。

量の調整や薬物の選択など、医師や薬剤師との相談が必要です。

抑肝散などの漢方薬

抑肝散は、イライラした気持ちを落ち着かせ、不安や妄想、暴力などを抑える効果があるとされている漢方薬です。

レビー小体型認知症や薬への過敏な反応がある人に対して処方されることもあります。後述する向精神薬よりも作用が穏やかな場合が多く、そのぶん重篤な副作用も生じづらいといわれています。

漢方薬の独特の香りが苦手な人もおられること、食前などの空腹時に服薬することなどの点には注意が必要です。

抗不安薬、抗精神病薬、抗てんかん薬など

異常な興奮や焦り、幻覚や不安などの行動・心理症状に向精神薬が用いられることがあります。

これらの症状は当然ご本人にもご家族にも辛いため、やむを得ず使用する場合もありますが、現在では第一選択としてこうした薬物を使用されるべきではないとされています。

向精神薬に限らず、高齢者は薬物を分解、代謝する能力が低下しているため副作用が生じる可能性が非常に高く、また他疾患で服薬している場合、多種多剤の服薬にリスクがあるからです。

そもそも、向精神薬の作用は個人差が非常に大きく、各自の適量は慎重に調整される必要があります。

思いがけず強い副作用を生じる場合もあり、例えば、鎮静作用が強すぎ、会話も身動きもできない状態になったり、うまく食事を飲み込めない嚥下障害という重篤な副作用があらわれることさえあります。

このため、興奮や焦り、不安などの症状があっても、向精神薬はかなり慎重に服用させる必要があるのです。

行動・心理症状は、ご本人にとっては意味のある言動であり、それをくみ取った適切なケアや、後述する非薬物療法での対応が優先的に取られるべきでしょう。

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非薬物療法

薬物を使わない治療法もまた、認知症の進行を止めたり、根本的に治療したりするものではありません。

しかし、生活の質を上げるという面では薬物療法以上の効果も期待されます。

例えば、認知症の症状による不安や妄想に苦しむ方も、昔からの趣味などに集中していれば、その時間は不安が少なく、その方らしく過ごしていられます。

代表的な非薬物療法には、以下のようなものがあります。

認知機能のリハビリテーション

いわゆる脳のトレーニングと呼ばれるゲームやパズル、計算ドリルなどを使用した学習療法、書籍の音読、麻雀など、一般的に頭を使うとされる活動を行うことにより、認知機能の維持や回復を目指すものです。

認知機能のリハビリテーション

生活リハビリテーション

料理や洗濯などの生活上の行為も立派なリハビリテーションの機会となります。

認知症と診断されると、ご本人は生活上の様々な場面で全般的に能力がないとみなされてしまい、家事もさせてもらえないこともしばしばあり、自信も活力も失っている傾向がみられます。

安全な環境で、できないことのみサポートされながら、これまで通りの生活を続けていくことそのものが、身体面でも心理面でも良い影響を与えます。

園芸療法

時間の見当識障害で時間の感覚が薄れ、季節感や時間による変化の感覚を失いがちな認知症の人にとって、季節を感じさせ日々成長していく植物は、とても心地よい存在です。

また、土をいじる、水をやる、花がらを摘み取る作業などが、昔の記憶や触覚をよみがえらせることもあります。

音楽療法

美しい歌詞や心躍るメロディ、楽曲がもつ時代背景や思い出は素晴らしい刺激となります。言葉がうまく出ない認知症の人でも、歌ならはっきりと歌え、自信を取り戻すといったケースもあります。

また、環境からの刺激をうまく分類できず過敏になる認知症の人でも、心地よい曲が流れているだけで不安が解消され、落ち着きを取り戻すこともあります。

「音楽療法」で心身を活性化

回想法

認知症初期~中期の記憶障害では、昔の記憶は失われにくい傾向があります。

記憶を次第に失いまるで自分が自分でなくなるような不安を覚えることも多い認知症の人が、懐かしい写真や映像、音楽をきっかけとして、昔の記憶を思い出し、誰かに伝えることはとても楽しいものです。

また、かけがえのない経験を積んだ自分をふりかえることが、楽しむ以上の意義を与えることも。それを若い世代に伝えることで、自尊心や喜びを得ることもできます。

いきいきとした心を取り戻す「回想法」

健康管理も「治療」のひとつ

認知症の人は自分の身体の異常や不快感を認識し伝えることが得意ではありません。暴言や怒りを示される方が実は便秘に苦しみ、適切な食事や運動で便秘が解消されたとたん、暴言も怒りもなくなったといったケースはよくみられます。
適切な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動などの健康管理も大切な非薬物療法です。

この他にも、アロマテラピーや芸術療法など様々な非薬物療法があります。ご本人にあったものを取り入れるとよいでしょう。

心身機能を高める「運動療法」

治療の続け方

医療や介護の発達により、認知症介護は長期にわたる傾向にあります。薬物療法も非薬物療法も長期間続けられ、負担なく取り組めることが大切です。

薬物療法の続け方

ご本人の状況をメモし、気軽に相談・共有する

薬物療法では医師や薬剤師との信頼関係とコミュニケーションが大切です。副作用に注意しながら、何か異常がみられた際には気軽に相談できる体制をとりましょう。

ご家族は、特に薬の飲み始めや変更時には日付や時間を記録して、ご本人の変化を観察し、記録を作成して医療側と共有しましょう。簡単なメモでOKです。

医療情報・薬の情報をできるだけ一元化する

整形外科と内科など複数の医療機関にかかっている場合、複数の薬がそれぞれ処方され、重複や飲み合わせが悪影響を与えることが考えられます。

お薬手帳を活用し、薬の情報を一元化しておいて医師や薬局の薬剤師に伝えられるようにしましょう。

また、可能なら病院、薬局をかかりつけとしてひとつに定め、ご本人のことを継続して知ってもらうようにしましょう。

信頼できる薬剤師と協力する

しっかりとした説明を受けず処方が変更されたり、副作用の相談を詳しく聞いてくれなかったりするのでは、医師との信頼関係も築けません。

その場合は、医師を変更することも一考に値しますが、薬剤師に協力を受けることもできます。

処方薬局の薬剤師は薬の副作用について幅広い知識を持っていることも多く、処方した医師に対し「疑義照会」という問い合わせを行うことができます。

しかし一方、薬剤師は病名や検査データなど処方箋以上の情報を知る手掛かりがありません。

それらの情報をお薬手帳に記入し薬剤師に伝えて、協力者となってもらうことも、薬物治療をうまく続けるコツのひとつです。

非薬物療法

ご本人が好んで行うものを

非薬物療法は、ご本人が望んで取り組むことが一番大切。一般的によいといわれていることでも、それをご本人に無理強いしないようにしましょう。

他の人を巻き込む

ご本人やご家族だけではなく、非薬物療法に似た活動を行っている団体や近所の方にかかわると、つながり支え合って継続的に行いやすくなります。

がんばりすぎない

ご本人や周囲が躍起になってがんばり過ぎるのも問題です。以前よりできなくなったことにショックを受け、ストレスになってしまうこともあります。無理のない程度に取り組みましょう。

現状にあったものに変化させていく

残念ながら、認知症の進行に伴い、それまでできていた活動ができなくなっていくこともあります。今のご本人にあったものを新しく取り入れたり、ご本人と誰かが一緒に行う工夫も必要です。

認知症の進行を抑えることはできず、根本的な治療は現在のところありませんが、人の生活の質や価値は、認知症の症状とかかわりなく存在します。

それぞれの日常の中で、涙をぬぐい去り笑顔を取り戻すことの繰り返しこそが、「認知症」という病に対しご本人の尊厳を保持する「治療の本質」であると考えられます。

また、治療はご本人とご家族だけが取り組むものではありません。多くの医療機関や関連団体、地域社会を巻き込んで、多くの人々とともに認知症と歩んでいくことが求められています。

今、ご本人やご家族が治療に必要な支援は、多くの日本人も必要なものなのです。社会の様々なサポートをどんどん活用しながら、治療に取り組んでください。

イラスト:安里 南美

この記事の制作者

志寒浩二

著者:志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。

(編集:編集工房まる株式会社)

伊東 大介

監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)

1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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