埼玉県川口市にある老人ホーム附設レストラン「ベルマルシェ川口」の外観

首都圏を中心に32施設を運営している有料老人ホーム・未来倶楽部。そのなかで唯一、洋食レストラン「ベルマルシェ川口店」を附設しているのが未来倶楽部川口新井宿です。入り口は異なるものの、なぜ老人ホームと同じ建物に洋食レストランをオープンさせたのでしょうか? また「ベルマルシェ川口店」が提供している「特別食」とはどのようなメニューなのでしょうか? 

まずは利用者の様子や店内の特長などについて、「ベルマルシェ川口店」を運営するアンシャンテ株式会社の吉岡睦夫(よしおか むつお)さんに聞きました。


想定したのは入居者様がご家族と一緒にお食事をする場


――「ベルマルシェ川口店」のオープンのきっかけを教えてください。

食事制限がある方は、レストランなどで外食しにくいですから、入居者さまがご家族と一緒にお食事をする場として「ベルマルシェ川口店」を附設しました。「家族と一緒にレストランに来て食べられるメニューがあったらうれしいな」、そんなシーンを想定しています。


――利用者はどういった方々が多いですか?

お客さまは、近隣の方が多く女性が8割以上ですね。年齢層は幅広く、ママ友のグループやゲートボールのお友だちなどさまざまで、口コミで確実にお客さまが増えています。ランチでは、メインのお料理にスープやサラダ、コーヒーもついているので、1時間半から2時間とゆったりおしゃべりを楽しむ場になっています。


――入居者の方も食べにいらっしゃいますか?

これまでに何度かご入居者さまがご家族と一緒にいらしたことがあります。面会にいらっしゃるたびにベルマルシェに来られるご家族が数組いらっしゃいます。また、親御さんに会われた後で、必ずここに立ち寄ってランチを食べて帰る方もいらっしゃいます。


 車椅子での利用もラクラク! バリアフリーと広々とした個室に注目!

車椅子での利用もラクラク! バリアフリーと広々とした個室に注目!


――「ベルマルシェ川口店」ならではのこだわりはありますか?

店内は車椅子でも移動ができるように通路幅も広く、すべてバリアフリーになっています。車椅子専用のトイレもあるなど、高齢者の方が利用しやすいように、設計段階からさまざまな配慮をしています。また、扉で仕切れる広々とした個室があり、入居者さまがお孫さんも一緒にご家族で食事会が開けるようなプライベートスペースとして利用できます。


――店内のこだわりが“うれしい想定外”につながっているそうですが、どのようなことでしょうか?

当店のように、車椅子で自由に移動できるようなレストランを自前で持っている施設はほかにはありませんから、デイサービスや大手の施設など同業者さまの「外食レクリエーション」などでの利用が増えています。車椅子の方が8名と介助者の方、合わせて10名で、個室で食事会を開いていただいたこともあります。このような利用は経営的にもうれしい想定外です。

ベルマルシェで提供する「特別食」とは?


次に「ベルマルシェ川口店」で提供されている特別食の特長やこだわりについて、株式会社未来設計 流通本部 本部長・料理長 山口敏也(やまぐち としや)さんに、お話を聞きました。

 

――特別食はどのような食事でしょうか?

私たちのいう「特別食」は、健康を意識して作られた糖質を抑えた食事(糖質制限食)と塩分を控えた(減塩食)を指します。いわゆる病院食ではなく“家庭料理”のような位置付けで、施設内の厨房で調理します。

料理は見た目も美しく感じられることが大切ですから、制限食でもお食事をご堪能いただけるよう、お料理をお重に盛ることで外食という特別感も感じられるように工夫しています。また、色合いが良いもの、旬のものを使うことを心がけています。

糖質制限食 エネルギー:370kcal、蛋白質:22g、脂質:5g、塩分:3g、ご飯の量:100~120g 糖質制限食 エネルギー:370kcal、蛋白質:22g、脂質:5g、塩分:3g、ご飯の量:100~120g


わずか370kcalの糖質制限食!


――糖質制限食を試食した後でカロリーを聞き驚きました。調理ではどのようなことに工夫されているのでしょうか?

糖尿病食ではカロリーを抑えるために、鶏肉ならば皮を取り、豚バラ肉の代わりに豚もも肉または鳥もも肉を使うなど素材を変えて対応しています。また、野菜の煮物ではイモ類を少なめにして調整し、菜の花のおひたしでは、お出汁に薄口醤油をほんの少したらした程度の味付けにしています。

減塩食 エネルギー:500kcal、蛋白質:23g、脂質:12g、塩分:2g、ご飯の量:170g
減塩食 エネルギー:500kcal、蛋白質:23g、脂質:12g、塩分:2g、ご飯の量:170g


味は薄めでも満足感が得られる、減塩食の工夫とは


――減塩食は糖質制限食に比べると薄味ですが、その分野菜などの旨味を感じるので満足感がありました。調理ではどのようなことに気を付けていますか?

減塩食の場合は、煮魚ならばお出汁を昆布や鰹節で取り旨みを引き出し醤油などを控え、野菜入りのあんをかけてボリュームを出します。菜の花のおひたしはマヨネーズで和えたり、塩の代わりにお酢を使ったりすることで塩分を調整しつつ旨みを感じられるよう工夫しています。

また、吸い物はお出汁を濃いめにして塩味を感じられるようにし、ゆずの皮を使用して香り付けをします。入居者さま用の料理では、野菜はかなり柔らかく煮ていますが、特別食ではあえて食感を残して満足感が得られるようにしています。

特別食ならではの難しさとは


――旬のものを取り入れるための、工夫やこだわりはありますか?

当社では千葉県九十九里浜の近くに「みらい元気農園」という自社農園があり、施設で使う野菜を作っています。それと、千葉の産直センターと契約しているので、収穫した翌日には野菜が施設に届きます。届いた野菜はすぐにメニューに加えて使うようにしています。

――糖質制限食と減塩食のレシピ考案で難しいと感じるのはどのようなことでしょうか?


レシピを考案するのは主に本社の管理栄養士で、私も食材の組み合わせなどを確認しています。難しいのは、カロリーと食材の調整および見た目の工夫ですね。たとえば、芋類はカロリーが高いので、煮物でジャガイモを使用するときには、レシピではお吸い物の具になっていたジャガイモをそら豆に変更することもあります。素材を変える場合は、管理栄養士にカロリーや塩分などで問題がないかを必ず確認しています。

――特別食についてお客さまからの感想やエピソードがあれば教えてください

糖尿病を患っている方のご家族が施設見学にいらしたときに糖質制限食を提供したことがあります。感想は「普通の料理と変わらずおいしいですね」と言われました。

お出汁をきかせたり、素材の持ち味を生かしたりして調理しているので、入居者さまでも病院食と比べて「味が濃いのでは?」と心配する方もいらっしゃいます。特別食の見た目は普通食と変わらないので、カロリーや塩分量の違いは数値でしかわかりませんから、心配される方にはすぐにカロリー表を出し確認してもらえるようにしています。


 

最後に、「特別食」を広く浸透させるための課題について吉岡さんにお聞きしました。

――特別食についてのお客さまの反応はいかがでしょうか?

特別食のご案内はしていますが、今のところ、デイサービスなど同業者さまの利用でも普通メニューの方を頼まれます。普通のメニューが食べられない方は、このような外出イベントの参加も難しい場合が多いのでしょう。しかし、特別食に興味を持っていらっしゃる方は多く、家族の介護をされている方からのお問い合わせは増えています。今後、特別食を提供していることが地域の皆さまに広く浸透していくことで、特別食のご利用も確実に増えていくだろうと考えています。告知方法などはまだまだ模索中です。

また、ご近所にお住いのご夫婦で、女性が塩分をまったく摂れないため、塩抜きの料理を特別にご用意しております。週に2~3回程度、ディナ―タイムにてご利用いただいておりますが、男性が毎回料理をするのが大変とのことで、とても喜んでくださっております。塩分抜きといったお客さまからのリクエストに応えられるのも、高齢者施設と連携し調理ができる当レストランならではの強みであり、ニーズは確かにあると感じています。


ベルマルシェ川口の取材を終えて

取材では糖質制限食と減塩食を比較しながら試食しました。どちらも驚かされたのは、その豊かな彩り。おひたしに菜の花が、吸い物にそら豆が使われていることで“旬”を意識していることが伝わってきます。

糖質制限食の味付けは上品な和定食といった印象で、噛むほどにそれぞれの素材の味がしっかりとわかります。ご飯の量は少なめなのですが、ゆかりが良いアクセントになっていて物足りなさはありません。

減塩食は糖質制限食と比べると味が薄く感じましたが、その分素材の持ち味を感じました。煮物は野菜を油で炒めてお出汁で煮ているだけだそうです。魚にかかっていた酸味のある野菜のあんかけは、野菜の歯ざわりも良く、減塩レシピであることを感じない味付けでした。

このような味付けや調理方法は、ご家族やご自身のために糖質制限食と減塩食を作られている方にも参考になるでしょう。

(川野ヒロミ+ノオト)