質問

要介護5で特養に入居中の父。施設での生活にずっと不満を持っており、在宅での看取りを希望しています。
最期はできるだけ本人の意思を尊重して在宅で看取る選択肢も考えておきたいのですが、在宅介護で看取りをすることは可能なのでしょうか?

回答
浅井 郁子

自宅で最期を迎えたいという父親の希望を尊重する、相談者のやさしい気持ちが伝わってきます。
死期が近づいた時期を「終末期」もしくは「ターミナル」といいます。看取りとは、終末期において治療による延命をせず、苦痛や不快感を緩和して残された生活の充実を優先させるために、家族や介護者が本人のそばにいて最期のときまで看病や世話をすることです。

施設や病院で生活していても、終末期を住み慣れた我が家で過ごしたいと願う人は多くいます。これまでは、在宅での介護力や医療体制を整えることが難しいため、自宅に戻る希望がかなえられないケースが多くありました。
しかし、2015年の介護保険法の改正により、在宅医療を支えるしくみが制度化されたことから、在宅で看取りができる体制が整えられ始めています。

ここでは在宅で看取りをしたいと考えている家族の心構えや準備について解説します。 浅井 郁子(介護・福祉ライター)

【目次】
  1. 自宅で看取るために必要なこと
  2. いつ在宅医療に切り替えるべきか
  3. 看取りの準備
  4. その日を迎えた時は
  5. まとめ

自宅で看取るために必要なこと

2012年に内閣府が行った「高齢者の健康に関する意識調査」によると、「最期を迎えたい場所」という質問に対して75歳以上の60%近い人が「自宅」と答えました。「病院などの医療施設」と答えた人は30%に満たず、介護施設も6%強という数字でした。「住み慣れた家で最期を迎えたい」という思いは、人の自然な感情なのだと思います。

在宅での看取りでは、残された時間を家族と一緒に過ごせることが本人にも家族にも大きなメリットになります。しかし一方で、家族の介護負担や互いに気遣うなどの精神的な負担が発生します。

負担を軽減するためには、次のような条件が必要と考えます。

1.本人と家族が共に「自宅で最期を迎えたい」という意思があること

2.在宅医や訪問看護などの医療チームの体制が整うこと

3.家族や介護サービスによる介護力があること

4.医療と介護が24時間体制でできること

国は、地域での看取り体制の確保を推進していくために、2015年の介護保険法の改正で、「在宅医療・介護の連携推進」を制度化しました。これにより上記の条件のうち2~4についてクリアできるしくみが、各市区町村で整いつつあります。

制度の中で重要視されているのが24時間体制の医療チームの体制づくりです。全国の市区町村では、地域の医師会などと緊密に連携しながら、「在宅療養支援診療所」もしくは「在宅療養支援病院」の設置を進めています。医療チームに入浴、排せつ、食事などの介護サービスが連携し、地域の住民の看取りを支えます。在宅で看取りを考えている家族にとっては心強い制度といえるでしょう。

いつ在宅医療に切り替えるべきか

相談者のように、施設に入居している場合にいつ在宅に切り替えるべきかは、本人の希望や家族の受け入れ体制などを考慮しながら考えることが大切です。そのため、施設の担当医にこれから起こる身体や状態の変化について相談し、どの段階で自宅に戻った方がいいのかの判断材料にしましょう。

看取り介護のスタートは通常、医師の判断で決まりますが、高齢者の場合は食事ができなくなったときが一般的に看取りの開始時期と考えられています。しかし、在宅に切り替えるタイミングを決めるのはとても難しいことです。人は死期が近づくと、身体が栄養や水分を必要としなくなり、食欲が衰えてきます。しかし、家族はなかなかそれを受け入れることができず「食べないから元気が出ないのだ」と思い、少しでも食べてほしいと本人に訴えたくなります。それを思うと、本人に食欲がある段階で自宅に戻ったほうがいいという考え方があるかもしれません。しかしその場合、家族に介護の負担がかかります。一方で、本人の食欲がなくなってしまってから自宅に戻ると自宅で穏やかに過ごす時間が短くなるという懸念があるでしょう。

在宅に戻るタイミングを考えるときは、施設の担当医、ケアマネジャー、看護師たちとよく話し合い、一番いいと思う時を各々で判断することが大切です。

看取りの準備

1.ケアマネージャーと在宅医を見つける

看取りの準備については、本人と家族が在宅での看取りを考えはじめた時から動いたほうがよいでしょう。まず、地域包括支援センターに行き、在宅医療や看取り関して助言ができるケアマネジャーについて相談します。同時に、在宅医も探します。ケアマネジャーが決まればケアマネジャーから紹介してもらえますし、かかりつけ医がいる場合は、往診が可能かどうかの確認をし、可能ならば看取りまでしっかり対応してくれるかどうかの相談をします。かかりつけ医がいない場合や、いても24時間対応や看取りまでの対応が無理な場合は、地域包括支援センターや市区町村から在宅医を紹介してもらいましょう。市区町村には「在宅医療相談」や「在宅医療介護連携」などの名称の窓口がありますので問い合わせてみてください。市区町村によっては医師会が在宅診療可能な、かかりつけ医を紹介してくれるしくみになっているところもあります。

2.看取りチームを編成する

ケアマネジャーと在宅医が決まれば、本人の状態とこれまでの経緯、家族の介護力を正直に伝えてこれから在宅でどのような療養生活を送りたいかを話し合います。そして、本人や家族の状態に応じて、在宅医、在宅歯科医、歯科衛生士、薬剤師、訪問看護師、理学療法士、管理栄養士、訪問ヘルパーなどで編成する看取りチームを作ります。なお、在宅で提供される医療サービスは医療保険の適用となり、訪問看護は疾患名によって医療保険もしくは介護保険が適用されます。

3.穏やかに過ごせる環境をつくる、心構えを持つ

看取りチームの専門職たちは、それぞれ連携のポイントを理解したうえで在宅の看取りを支えてくれます。しかし、看取りのキーパーソンはやはり本人の一番そばにいる家族です。どういう時に、誰に連絡をとったらいいかについては、ケアマネジャーによく確認しておきましょう。また、本人が穏やかに過ごせる環境を作ることもだいじです。自宅の環境づくりの大切なポイントは、できるだけこれまでと変わらない雰囲気にすることです。本人が好きな音楽をかけたり、大切にしている物や思い出の品を身近においたりして、満足してもらえる空間を作りましょう。本人が望めば、親しい友人と過ごす時間を作る配慮もしたいところです。本人に孤独を感じさせないようにするのが家族の最も大事な役割といえるでしょう。

在宅での看取りは、家族にある程度の覚悟が必要になりますから、在宅医と訪問看護師に、これからどんなことが起こり得るか、その時どんな対処をするとよいかを聞いておき、イメージをもつことも大切です。というのは、亡くなるその瞬間までそばにいる家族は、辛くなってくることがありますし、夜中に気になって何度も起きることでの負担がかかることもあります。そんな時に家族の力になるのは看取りチームの人たちです。彼らに任せられる部分は任せ、家族は本人と寄り添うことに重点を置くことが大事です。

その日を迎えた時は

最期を迎える日までの対応については、在宅医と訪問看護師から細かなアドバイスを受けておきます。特に “その時”の連絡のとり方は、前もってしっかり確認をするようにしましょう。異常がない限り、在宅医が死亡診断書を交付してくれます。

また、葬儀についての事前準備も行っておいたほうがよいでしょう。葬儀のことを考えるのは辛いことかもしれませんが、そこまでが看取りの流れと受け止めてほしいと思います。本人が施設に入居している間に事前相談をしておくのも一つの方法です。葬儀の事前準備をすることで、看取りをする覚悟ができたという声は多く聞かれます。

まとめ

自宅で最期を迎えたい理由は人それぞれですが、死期が迫っていると感じ始めたら、多くの人が自宅に戻りたいと思うのではないでしょうか。それは自宅にしかないものがあるからでしょう。懐かしい思い出、香り、風景、ぬくもり。そのような環境のなかで穏やかに逝きたいと願うのは、人の自然な感情だと思います。

しかし、厚生労働省による2015年のデータでは、8割近くの人が病院で最期を迎えており、自宅で亡くなるケースは1割強に過ぎません。(平成28年 厚生労働省統計調査より)そんななかで在宅での看取りができる地域の在宅医療の体制が整えられつつあります。地域の在宅療養支援の情報を集めることから始めてみてください。そのうえで、最期を迎える場所として、施設と在宅それぞれのメリットとデメリットを考慮し、無理のない決断をしてほしいと思います。

このQ&Aに回答した人

浅井 郁子
浅井 郁子(介護・福祉ライター)

在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。
高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。
東京都民生児童委員
小規模多機能型施設運営推進委員
ホームヘルパー2級