質問

要介護4で認知症の母を在宅で介護し始めて3年になります。
週2回のデイサービスに通ってもらい、土日含めほぼ毎日訪問介護を利用しておりますが、それ以外の時間は常に母のそばにいなくてはならず、気が休まりません。
このところ、私の体調が悪く、夜もあまり寝付けなくなってきました。しかし、母は人と接することが苦手なため、介護施設への入居もなかなか言い出せません。
在宅介護はどこまでやれば限界なのでしょうか?

回答
浅井 郁子

3年にわたる認知症の母親の在宅介護は、本当に大変なことと思います。お母様の介護をよくされていることが短い文章からも伝わってきました。

相談者はデイサービスと訪問介護を組み合わせて介護サービスをじょうずに利用されています。しかし、介護の負担が大きいのですね。文面から少し一人で抱え込まれている印象も受けました。一度、広い視野から介護をとらえてみることをおすすめします。
その考え方のヒントをお伝えしましょう。 浅井 郁子(介護・福祉ライター)

【目次】
  1. 在宅介護の限界はどこか?
  2. 在宅介護を止める、見直すきっかけは?
  3. 客観的に考えてみることが、解決の糸口
  4. まとめ

在宅介護の限界はどこか?

家族による在宅介護のかたちは、本人と家族の組み合わせがこの世ただ一つですから、100人いれば100通り違ってきます。従って、介護の限界を感じる理由もさまざまです。

中腰で毎回の排せつケアをしているせいで腰を痛めてしまった、食事の介助に何時間も費やし疲れ果ててしまうなど肉体的に無理が生じてくる方もいるでしょう。
また、本人のわがままに耐えられなくなった、介護が原因で介護離職せざるを得なくなった、在宅介護にかかる費用が限界になったなど、長く介護を続けているなかで精神的に追い込まれる事も起こりえます。それらのさまざまな理由が複合的に重なり合い、介護の限界を感じていくのです。
2016年に毎日新聞が行った在宅介護者へのアンケートでは、約7割の家族介護者が、精神的・肉体的に限界を感じていると答えています。なかでも介護による不眠状態にある人が全体の約6割を占めており、そのうち7割の人が一晩に1~3回起きていることがわかりました。夜間のおむつの交換のためや、昼夜逆転して夜間に起き出す認知症の人に対応するために、家族は毎晩起きる生活を送っていることが考えられます。不眠や睡眠不足は、家族を肉体的にも精神的にも追い込み、介護の限界を感じさせる大きな要因になっています。

在宅介護を止める、見直すきっかけは?

在宅での介護に限界を感じ始めても、もう無理だと家族が判断するタイミングは案外難しいものです。しかし、本人の症状は少しずつ変化しますし、家族も年を重ねていきます。共倒れにならないよう早めに先のことを考えながら解決方法を見出していくことが大切です。そのきっかけとなる一歩を踏み出すための方法を考えてみます。

1.精神的に追い込まれないよう、悩みを人と共有する

介護する家族が、体調がすぐれなかったり、寝られなかったりと、明らかに以前とは異なる体調の変化を感じたら、無理をしている証拠です。気分転換を図ることに努めましょう。特にシングル介護の場合は、介護をこのまま続けられるのだろうか?私の人生はどうなるのだろう?と一人で考え込みネガティブな発想に陥りやすくなります。
できるだけケアマネジャーや訪問ヘルパーと気軽に話せる間柄になってください。また、同じ悩みや経験をもつ仲間とおしゃべりをしたり、家族会などに顔を出したりすることは、とても有意義なことです。自分の悩みや思いを誰かに共感をしてもらえると、気持ちが楽になりますし、同じような課題を抱えた経験のある人たちからは、介護に関する有効な情報を得ることができます。誰かと話すことで、介護生活にメリハリをつけられれば、新たな気持ちをもちやすくなり、前向きに先のことを考えられるようになると思います。

2.介護サービスを見直す

現在の介護が少しでも楽になるように、ケアプランの見直しを検討しましょう。そのためにも、本人だけでなく、家族の状態も常にケアマネジャーに把握してもらえるよう、常にケアマネジャーに相談することを心がけてください。

3.介護施設の情報を集める

新しい介護のかたちとして、介護施設への入居の検討も視野に入れましょう。介護に限界を感じる前の、まだ在宅介護でも大丈夫だと思っている間に動いても大丈夫。早すぎることはないのです。

まず、介護施設見学を始めます。実際に介護施設を見学してみたら「こういう介護施設だったら家での環境よりいいかもしれない」と入居を考える人は多くいます。また、介護施設に申し込みをしたことで気持ちに負担感が減り、在宅介護に余裕がもてるようになったという人もいます。

介護施設入居は、本人の意思が最も重要ですが、介護者が介護施設見学をしてみてどう思ったかも同じくらいに大事です。介護施設入居が在宅介護からの逃げ場所ではなく、本人にとっての生活環境を考えた結果だと思うことができれば、家族も納得できると思います。そのためにも、介護施設を選ぶ際は、本人の身体状況や病状への対応だけでなく、本人に合った生活スタイルや価値観が、その介護施設にあるかどうかのチェックが大事になります。

よいと思った介護施設があったときは、体験入居やショートステイの利用を検討しましょう。民間の有料老人ホームでは、介護保険外サービスとして、短い滞在から1カ月の長期利用が可能な有料ショートステイを実施している介護施設もあります。ぜひ活用してみてください。

客観的に考えてみることが、解決の糸口

ここで今回の相談者のお悩みについて、具体的に解決策を考えてみます。

相談者の言葉から2つの気になる点がありました。

1つは「週2回のデイサービスと毎日の訪問介護以外の時間は、家族が常にそばにいなくてはならない」点です。誰かがそばにいなくてはならない理由の細かい様子がわかりませんが、もしかしたら、家族がそう思い込んでいるところはないでしょうか。お母様のことを客観的に考える機会を作ってみるというアドバイスをしたいと思います。

お母様のことを客観的に考えるには、他の人のケースを知ることです。同じ悩みや思いを抱えている人たちの話を直接聞くことができる、認知症の介護者が集まる家族会に参加してみてください。本人につきっきりでないと本当にダメなのか、もしかしたら安全な環境を整えられれば大丈夫なのかもしれないなど、客観的に考えることで見直せる点が気付けるかもしれません。

2つ目は「本人が人と接することが苦手なために、介護施設入居は無理と考えている」点です。認知症の人の生活環境は、安全を確保して安心感を与えることが大切です。デイサービスや訪問介護を利用しているときに、本人が安心した表情と不安そうな表情をするのはどういうときかを少し離れたところからこっそり見てみましょう。家族がいないところで本人は違った表情を見せているかもしれません。それによって、介護施設入居に対する家族の考え方に変化が起こるかもしれません。また、家族会にはきっと同じ悩みや経験をした人がいるはずですから、これも皆さんに相談してみましょう。

このように、本人のことを客観的にとらえてみることは、介護を見直すときにとても大切なことです。

次に、介護サービスの見直しについて考えます。

認知症の高齢者は敏感な面がありますから、住み慣れた生活環境、なるべく少人数の中にいる、見慣れた顔の人たち、安全で小さな移動、本人らしい生き方ができる生活スタイルが必要です。一方で、介護をする家族の負担を和らげることも必要になります。その両方のニーズを考えると、地域密着型サービスの「小規模多機能ホーム(小規模多機能型居宅介護)」が選択肢にあがります。

小規模多機能ホームは、通い(デイサービス)、訪問(訪問介護)、泊り(ショートステイ)の3つのサービスを自由に組み合わせることができるのが特徴で、なおかつそのサービスを1カ所の事業所で提供するため、通いと訪問のスタッフが同じ顔ぶれになることから、認知症の人にとっても安心できる仕組みです。また、3つのサービスの組み合わせを柔軟にできることと、ショートステイを他で探す必要がないことは、家族にとって大きなメリットになるでしょう。お住まいの地域にこのサービスがあったら一度検討してみてください。

まとめ

家族が認知症になると、どうしても本人の生活に制限をかけてしまいたくなるのが、介護をする立場の家族というものです。しかし、大切なのは認知症によりできなくなったことや消極的になったことから、本人の生活を取り戻すことです。

演歌を聴くこと、体を動かすこと、自然の空気に触れること、食べること…本人がどんなことに対してよい反応や興味を示すかは、家族といえども体験をしてみないとわらかないものです。認知症を発症する前の生活や本人が好きだったことを、今一度振り返ってみてください。それを体験したり提供してもらえたりするサービスがないかを、ケアマネジャーや地域包括支援センター、そして家族会などで相談してみましょう。

また、介護施設入居を決断した場合は、本人も家族も納得できる介護施設を選ぶことが大事です。

介護サービスをうまく利用しながら、本人と家族ならではのたった一つの介護のかたちを作っていってほしいと思います。

このQ&Aに回答した人

浅井 郁子
浅井 郁子(介護・福祉ライター)

在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。
高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。
東京都民生児童委員
小規模多機能型施設運営推進委員
ホームヘルパー2級