質問

79歳の夫は要介護3で私が介護をしています。最近は老人ホームへの入居を考えているのですが、夫は自分が思う通りの介護をしないと機嫌を損ねるので、入居後もこれまでと同じ介護をしてもらえるのかが心配です。
老人ホームでは「ケアプラン」の作成をすると聞きました。どのように作成され、介護サービスが提供されるのでしょうか?

回答
吉田 匡和

入居後は、ご本人にとって適切な介護サービスを検討・実施し、職員間で統一を図る必要があります。そのためのツールとして、「介護サービス計画書(ケアプラン)」の作成が介護保険法によって義務付けられています。ケアプランの作成は、ご本人、ご家族の希望を関係するスタッフが伺い、課題や解決のための方法を検討します。
ここではなぜ義務化されたのか、ケアプランの作り方などについて解説します。 吉田 匡和(社会福祉士/介護支援専門員)

【目次】
  1. 1.ケアプラン義務化までの流れ
  2. 2.ケアプランの意義と目的
  3. 3.ケアプラン作成にはすべての人が関与する
  4. 4.ケアプラン作成のプロセス
  5. 5.ケアプランの実施と見直し
  6. 6.自立支援のための生活リハビリ
  7. 7.娯楽的希望もケアのひとつ
  8. まとめ:ケアプランは入居者の生活を豊かにする

1.ケアプラン義務化までの流れ

2000年に創設された「介護保険制度」により、介護施設においてケアプランの作成が義務付けられました。

これまで介護は経験に頼るところが多く、すべての介護職員が同じスキルで介護を行っているとは言いがたい状況でした。

また看護師や生活相談員など他職種との連携が必要不可欠でありながら、共通したツールも存在しません。それらの問題を解決すべく「ケアプランの作成」が義務付けられたのです。

>介護保険制度について詳しく解説


2.ケアプランの意義と目的

ケアプランの根底にあるのは「自立支援」です。すべてに手を貸すのではなく、その人のあるべき機能(残存機能)を生かすことで、自立を促し尊厳のある生活を送っていただくことが狙いです。

そのためには、新人からベテランまで統一した介護とスキルが求められます。また、他職種の意見や情報も介護内容に反映させなくてはなりません。

ケアプランは、それぞれがバラバラに行っていたケアを一枚のプランに集約。いわば「個々に応じた介護のマニュアル」なのです。

>ケアプランについて詳しくみる


3.ケアプラン作成にはすべての人が関与する

ケアプランは、介護支援専門員(ケアマネジャー)が、入居者ご本人やご家族に確認を取りながら状況を把握します。

介護職員、看護師、生活相談員などの各職種と連携を取りながら、生活において解決すべき課題や、目標を達成するために必要なサービス(介護、看護、食事、機能訓練、娯楽など)を検討し、それらを盛り込んだケアプランを作成します。



4.ケアプラン作成のプロセス

新しく入居される方への対応は、ご家族同様にスタッフも不安を感じています。

そのため入居後すぐにケアマネジャーは、食事、入浴、排泄について、ご本人やご家族から伺った情報をもとに、暫定ケアプランを作成します。

例として、今回の質問者様が懸念されている「自分が思ったように介護をしないと、すぐ機嫌を損ねる」と言う点については、下記のようにケアプランに盛り込まれます。


施設サービス計画書(1)

生活全般の解決すべき課題(ニーズ) 自分が思ったように介護をしないと、すぐ機嫌を損ねる
目標 長期目標 適切な介護を行い、安心して生活していただく
(期間) ケアカンファレンスから3カ月後
短期目標 適切な介護方法を構築する
(期間) 入所から2か月後
援助内容 サービス内容 1.家庭における介護方法を奥様より伺い、対応マニュアルを作成する。
2.介護が必要な場面において、どのような対応が適切か必ず本人に確認する。
3.適切な介護方法がわかったら、随時マニュアルに追加し、対応を統一する。
※1
サービス種別 介護職員
看護師
※2
頻度 随時
期間

※1 「保険給付の対象となるかどうかの区分」について、保険給付対象内サービスについては〇印を付す
※2  「当該サービス提供を行う事業所」について記入する

生活全般の解決すべき課題(ニーズ)

1.家庭における介護方法をご家族より伺い、対応マニュアルを作成する。
2.介護が必要な場面において、どのような対応が適切か必ずご本人に確認する。
3.適切な介護方法が分かったら、随時マニュアルに追加し、対応を統一する。



5.ケアプランの実施と見直し

暫定ケアプラン作成から約2週間から1か月後に「ケアカンファレンス」を開催。

ケアマネジャー、介護職員、看護師、生活相談員、機能訓練員、可能な限りご本人やご家族にも参加いただき、ケアプランが見直されます。

暫定ケアプランでは、「自分が思ったように介護をしないと、すぐ機嫌を損ねる」と言う点について3つのサービス内容が立案されていましたが、2週間の間で不都合はなかったか、また変更が必要な場合は、何が問題で今後どうするべきかなどが話し合われます。これを「モニタリング」と言います。


生活全般の解決すべき課題(ニーズ)のモニタリング

1.家庭における介護方法を奥様より伺い、対応マニュアルを作成する。
→最初から介護の方法が提示されていたので、ある程度本人に負担のない介護ができた。


2.介護が必要な場面において、どのような対応が適切か必ず本人に確認する。
→マニュアルにない内容については、本人に確認しながら行ったが、話しかけ方によって機嫌を損ねることがあったので、言葉遣いなどに注意が必要である。


3.適切な介護方法が分かったら、随時マニュアルに追加し、対応を統一する。
→随時マニュアルを追加していたものの、その時の気分によっては対応を変えなくてはならないことがあった。また、マニュアルの更新を知らずに対応していたスタッフもいることが分かった。


ケアカンファレンスの中では、介護の方法について質問することが多く、通常のコミュニケーションが不足していたこと。

それが原因で些細な言葉にも機嫌を損ねていたこと、マニュアルが更新していたにも関わらず、見落としているスタッフがいたため、対応について立腹されていたことなどが分かりました。

以上の結果を踏まえて、ケアプランが下記のように変更されました。



施設サービス計画書(2)

生活全般の解決すべき課題(ニーズ) 自分が思ったように介護をしないと、すぐ機嫌を損ねる
目標 長期目標 適切な介護を行い、安心して生活していただく
(期間) ケアカンファレンスから6カ月後
短期目標 適切な介護方法を構築する
(期間) ケアカンファレンスから3カ月後
援助内容 サービス内容 1.日常会話などのコミュニケーションを取りながら、介護の希望を伺う
2.適切な介護方法がわかったら、随時マニュアルに追加し、対応を統一する。
3.マニュアルが更新された場合は、パソコン画面上に表示。確認したらサインを入れる。
※1
サービス種別 介護職員
看護師
※2
頻度 随時
期間

※1 「保険給付の対象となるかどうかの区分」について、保険給付対象内サービスについては〇印を付す
※2  「当該サービス提供を行う事業所」について記入する

生活全般の解決すべき課題(ニーズ)

1.日常会話などのコミュニケーションを取りながら、介護の希望を伺う。
2.適切な介護方法が分かったら、随時マニュアルに追加し、対応を統一する。
3.マニュアルが更新された場合は、パソコン画面上に表示。確認したらチェックを入れる。

次回のケアカンファレンスは3か月後に設定。それまで今回のケアプランを実施し、モニタリングを行います。すでに問題がなく見直しの必要がなければ終了、新たに問題があれば再検討となり、これが繰り返されます。



6.自立支援のための生活リハビリ

前述したように、ケアプランには「自立支援」が根底にあります。

そのためにはリハビリテーションが必要ですが、高齢者の場合、身体的な負担がいため機器を使うリハビリよりも、箸を使って食事をする、自分でトイレに行けるなどの生活リハビリ」が中心となります。

そうした日常動作の維持もケアプランに盛り込まれます。



7.娯楽的希望もケアのひとつ

ケアプランには娯楽的な希望も盛り込みます。例えば「毎年墓参りに行きたい」「好きだった店にラーメンを食べに行きたい」と言う希望も可能。

目的がなければリハビリは辛いものですが、「何かをしたい」と思えば、辛さはやる気に変わるものです。

このように「入居者にとって何が必要か」と言う視点を持って各専門職が話し合うことで、本人の希望を汲んだケアプランが作成されると言うわけです。



まとめ:ケアプランは入居者の生活を豊かにする

筆者は、介護保険以前から高齢者福祉にかかわっていましたが、当時はまだ収容的要素が強く、個人と言うより施設の都合が優先されることが多かったように思えます。

そのため老人ホームに入ることは、人生の諦めのような雰囲気もありました。しかしケアプランが導入されたことで、「個」が尊重されるようになり、施設の組織力によって入居者の方々に少しでも楽しんでいただけるようになりました。

ケアプランはその方にかかわるみんなで作るものです。ご家族の方々も要望があれば遠慮なく申し出て、よりよいプランの作成に協力してみてはいかがでしょうか。

(監修:森 裕司 株式会社HOPE代表、介護支援専門員、社会福祉士)

このQ&Aに回答した人

吉田 匡和
吉田 匡和(社会福祉士/介護支援専門員)

高齢者福祉施設生活相談員及び管理職。福祉専門学校において教職員の経歴を持つ、実践力と学術的知識の二つの顔を持つスペシャリスト。自身も介護を必要な親を抱えており、親身になって懇切丁寧にご質問にお答えします。