【和朝食メニュー。卵焼き、ほうれん草のおひたし、ご飯とお味噌汁、柴漬け】

【和朝食メニュー。卵焼き、ほうれん草のおひたし、ご飯とお味噌汁、柴漬け】

毎日の食事が口に合うかどうかは、介護施設選びにおいてとても大切な条件のひとつではないでしょうか。おいしいごはん、食べたいですよね!

千葉県千葉市稲毛区にあるサービス付き高齢者向け住宅『シニア町内会稲毛』では、入居者に食の楽しみを味わってもらいたいと、さまざまな工夫を凝らしています。どんな食事がいただけるのでしょうか。

食卓を彩るおいしさと楽しさ

 【昼食時に世界の料理を楽しめます。写真はインド料理】

【昼食時に世界の料理を楽しめます。写真はインド料理】

『シニア町内会稲毛』の食事は、ホーム内にある厨房で手づくりしています。食事は部分的にメニューを選択できるスタイルです。朝食は「和食・洋食」から選択。昼食の主菜も好みに応じて2種類から選択できます。夕食は選択はできませんが、和食が中心で焼き魚や煮物、とんかつなどの家庭的なメニューが多いそう。

朝昼晩の三食のうち、いちばんバラエティーに富んでいるのは昼食です。昼食のメニュー構成は、選べる主菜に副菜としておかず二品と汁物、そしてフルーツが基本。毎食必ず一品は薬膳メニューが用意されます。さらには月に一度、すべての献立が薬膳で構成される「薬膳御膳の日」もあるのだとか。

また月に数回、郷土料理や世界の料理が味わえる、とっておきのおすすめメニューも登場します。たとえばロシア料理の日は、ビーフストロガノフにヴィネグレット(ロシア風ポテトサラダ)、ザックスカ(鮭とマヨネーズのオープンサンド)、とテーブルに並ぶメニューも本格的。

そのほかにも、「思い出のレシピ」と称した入居者によるリクエスト料理や、厨房スタッフの創作料理を入居者が試食して選ぶレシピコンテストの入賞メニューが食卓に上がるそうです。

珍しい料理が食べられたり、入居者参加型のメニュー開発に取り組んでいたりと、食を通じて楽しみを届けようという思いが伝わる企画が盛りだくさんですね。

介護食ではなく、入居者がおいしく味わえる食事をつくる

【試食でいただいた昼食メニュー。手前が薬膳料理の銀杏のすまし汁】

【試食でいただいた昼食メニュー。手前が薬膳料理の銀杏のすまし汁】

取材日の昼食に出たメニューを実際に試食しました。献立は、選べる主菜の肉料理には「鶏肉のきのこ蒸し」、魚料理には「鱈のソテー豆乳ソース」。副菜には「小松菜と桜海老のソテー」、「セロリのたらこ和え」。そして薬膳メニューは「銀杏のすまし汁」でした。

老人ホームの食事というと、全体的に薄味で柔らかく調理しているというイメージがあります。しかしいただいた食事は、味もしっかりしているし、素材の食感も十分に楽しめるもの。

 【和風バターソースの味に舌鼓を打った鶏肉のきのこ蒸し】

【和風バターソースの味に舌鼓を打った鶏肉のきのこ蒸し】

個人的にとてもおいしかったのが、鶏肉のきのこ蒸しです。ソースが絶妙で、思わず厨房スタッフの方にレシピを尋ねてしまったほどでした。本部から届いたレシピをもとに調理しているそうです。バターと醤油のシンプルな味つけながら、後を引くおいしさでした。

 【セロリのたらこ和えも歯ごたえがしっかりしていました。】

【セロリのたらこ和えも歯ごたえがしっかりしていました。】

セロリのたらこ和えもおいしかったです。高齢者向きの食事というと柔らかく茹でるイメージがありましたが、『シニア町内会稲毛』の料理は柔らかくなりすぎないくらいに茹でてあり、きゅうりともやし、セロリのシャキシャキとした食感が楽しめる調理がされていました。たらこの塩気も、薄すぎず、しょっぱすぎず。茹でて混ぜるだけのシンプルな和え物には、調理の丁寧さが料理に出ると感じました。

【小松菜と桜海老のソテーは桜海老の香りが口の中に広がりました】

 【小松菜と桜海老のソテーは桜海老の香りが口の中に広がりました】

これまで取材した老人ホームでは、歯の弱い方に合わせてやわらかく調理した料理を出すホームが多かったです。しかし『シニア町内会稲毛』では、歯ごたえのある食べ物が苦手な方の食事を個別に刻んだりやわらかくする対応をしているそうです。

そしてこの日の薬膳メニューは銀杏のすまし汁。もちっとした食感と独特の香りを楽しめる、銀杏が主役のあっさり味。銀杏には滋養強壮、肺を潤し咳止めにも効果があるそうです。なんだか健康になれそうな予感……!

食事を楽しむ工夫として、月に数回イベント食を企画するホームは多いですが、『シニア町内会稲毛』のように薬膳料理を毎日の食生活に組み込むというのはとても珍しい取り組みです。いったいなぜ、薬膳メニューを取り入れることにしたのか、薬膳インストラクターの田中真理さんに話を伺いました。

「薬膳」をきっかけに入居者との交流を図る

 【薬膳インストラクター(社内資格)の田中さん】

【薬膳インストラクター(社内資格)の田中さん】

――薬膳というと、薬効のある珍しい食材を使った料理というイメージがありますが、毎日の食卓に上ると聞いて驚きました。

田中さん:言葉のイメージに誤解される人も多いのですが、薬膳は「体質や体調に合わせて季節の食材を組み合わせて食べましょう」というとてもシンプルな食の知恵なのですよ。

――詳しく教えてください。

田中さん:そもそもどんな食材にも栄養がありますし、何を食べても充分体にいいものなんです。ただ中国伝統医学に基づいて、それぞれの食材が持つ栄養をより効果的に取り入れる食べ方を伝えているのが薬膳です。


――では、特別な食材を使うから薬膳、というわけではないのですね。

田中さん:そうですね。たとえば、冬に生姜を食べると体が温まるといった、ふだん何気なく生活に取り入れている知恵も薬膳なんですよ。

 【食堂にディスプレイされていたスパイス。コショウと唐辛子】

【食堂にディスプレイされていたスパイス。コショウと唐辛子】

――薬膳をメニューに取り入た理由はなんでしょうか。

田中さん:薬膳が日本人の体質に合っているからという理由はもちろんあるのですが、一番は食をより楽しんでいただけたらとの思いからですね。同じ料理をただおいしいおいしい、と食べるのと、「この銀杏には咳止め効果があるから、喉を痛めやすい冬の時期に食べるといい」と知って食べるのでは、食べる気分もずいぶん違いますよね。

――確かに!効果を知って食べると、より味わい深いですね。

田中さん:そんなふうにもっと食に親しんでいただけたらと、昼食時に食堂で「ワンポイント薬膳」の映像番組を流しています。薬膳の専門家が、その日のメニューに登場した食材なまつわる知識をわかりやすく解説をしてくれる番組です。

――献立に取り入れるだけではなく、料理をより楽しむ工夫をされているのですね。

田中さん:最近は、栄養士を中心に薬膳について語れるスタッフを増やす取り組みも始めました。ちょうど最近、社内資格で薬膳インストラクター講座 第1期生の受講と試験が終わったところです。食に携わるプロフェッショナルを育て、ご入居者と「薬膳」の話題を通じたコミュニケーションをもっと増やしていきたいと考えています。

シニア町内会稲毛:お食事の取材を終えて

取材当日は内覧会を開催していたため、さまざまなメニューのサンプルを見せていただくことができました。どれもコンセプトに合わせて、食器やカトラリー、ランチョンマットに至るまで、おしゃれにコーディネートされていたのがとても印象に残っています。

味だけではなく、見た目の雰囲気にも気を配り、食事の時間を彩り豊かに演出する———そのおもてなしの心遣いが素敵だと思いました。

(記事中の内容や施設に関する情報は2017年6月時点の情報です)